研究成果

特定の分子にのみ反応する酵素の特徴を応用し精密有機合成を実現 -薬剤候補物質の効率的な合成へ-


2017年11月14日


     松原誠二郎 工学研究科教授、浅野圭佑 同助教、米田直紀 同修士課程学生、藤井結稀 同修士課程学生、松本晃 同博士課程学生らの研究グループは、次世代の有機合成触媒として注目を集めている有機分子触媒を用いて、不斉炭素(四つ全て異なる置換基と結合している炭素原子)を二つ含む光学活性テトラヒドロピランと呼ばれる医薬品関連分子の高効率合成を達成しました。

     本研究成果は、2017年11月9日午後7時に英国の科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

    研究者からのコメント

     本手法によって、興味が持たれながらも合成法の乏しさから入手困難であった医薬品関連分子を短工程かつ高純度で供給することができます。さらにこれらを基点に様々な誘導体を合成する突破口を与えるもので、創薬研究などの高速化につながる基盤技術です。今後は、より多くの不斉炭素を含む複雑な環状分子を合成する手法に展開します。

    概要

     医薬品をはじめとする機能性分子には光学活性を持つ化合物が多く用いられています。光学活性化合物は右手と左手に例えられるように、その鏡像が重ならず異なる分子になる化合物です。これら対になる化合物同士は生体内で異なる作用を持つことが多く、医薬品として利用するには片方の鏡像異性体を高い純度で合成することが必要です。

     こういった化合物には光学活性を生み出す部分構造があり、その多くには不斉炭素が含まれています。不斉炭素は生体内での作用を決定付ける三次元構造の礎になり、分子に多くの機能をもたらします。高機能な医薬品分子には複数の不斉炭素を持つものも多く、未来の医薬品を探索するうえでこのような分子には関心が集まっていますが、それらを合成することは簡単ではありません。特に、四つある置換基の全てが水素以外である四置換不斉炭素は、置換基間の大きさの差異などを識別しにくく、立体選択的に構築することが最も難しい構造の一つです。有機化学ではこの問題の解決策として、触媒を利用した合成法を発展させてきました。

     本研究では、生体内の酵素のモデルとしても扱われる光学活性有機分子触媒に、素早く形態を変化させながら存在する基質分子の特定の形態のみを認識させ、四置換不斉炭素を含む二つの不斉炭素を一挙に構築しながら、光学活性テトラヒドロピランの合成を達成しました。酵素は特定の基質にのみ反応する性質があり、今回の研究ではその特性を生かしました。光学活性テトラヒドロピランは、多くの医薬品の母骨格として利用されています。この合成法により、これまで合成が困難であった医薬品候補分子を短工程で供給できることから、創薬研究などの高速化が期待できます。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-01099-x

    【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227881

    Naoki Yoneda, Yuki Fujii, Akira Matsumoto, Keisuke Asano & Seijiro Matsubara (2017). Organocatalytic enantio- and diastereoselective cycloetherification via dynamic kinetic resolution of chiral cyanohydrins. Nature Communications, 8, 1397.


    特定の分子にのみ反応する酵素の特徴を応用し精密有機合成を実現 -薬剤候補物質の効率的な合成へ-
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