設定どおりに枝分かれ、ナノ輸送システムを開発 -分子の電気・機械的特性を利用したナノシステムの設計法-

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横川隆司 工学研究科准教授、磯崎直人 同特定研究員、Jennifer L. Ross マサチューセッツ大学アマースト校准教授、Taviare L. Hawkins ウィスコンシン大学ラクロス校准教授らの研究グループは、モータタンパク質であるキネシンと細胞骨格である微小管からなる「分子機械」を、微小流体デバイスと合わせて設計することで、目的地に狙い通りの微小管がたどり着くナノシステムを開発しました。

本研究成果は、2017年9月28日午前4時にアメリカ科学技術振興協会(AAAS)刊行の科学雑誌「Science Robotics」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、横川准教授、磯崎特定研究員

キネシンと微小管からなる「分子機械」は、ナノシステムにおける駆動源として利用されることが期待されてきましたが、その運動方向を思い通りに制御することは困難でした。本研究では、微小管の特性を改変することで、思い通りの場所へ微小管を輸送できること、さらに、微小流体デバイス内で分離できることを示しました。今後は、この分子機械を「分子シャトル」として用いることで、タンパク質の分析装置や、がんマーカの検出機器など、高機能なナノシステムの開発が期待できます。また、本研究で確立した微小管の曲げ剛性評価手法は、分子機械が生体内で発揮する機能の解明にもつながるものであり、生物物理学への貢献も期待されます。

概要

細胞内では、四方八方に張り巡らされたレールとしての微小管の上をキネシンが運動することで、細胞分裂や細胞内物質輸送などを実現しています。このキネシンと微小管の組み合わせを一つの「分子機械」とみなし、その駆動力を用いて対象の分子を輸送するナノシステムの開発が行われてきました。これまで、キネシンを基板に固定し、「分子シャトル」としての微小管を運動させる方法が提案されてきましたが、その運動方向を思い通りに制御することは難しく、ナノシステムとして利用することは困難でした。

本研究グループは、微小管の電気的特性(電荷)および機械的特性(硬さ)を改変することで運動方向を制御し、3種類の微小管(硬い微小管、軟らかい微小管、電荷が大きく軟らかい微小管)をそれぞれ異なる場所へ輸送できることを示しました。さらに、その運動にあわせて微小流体デバイスを設計し、微小管を電荷と硬さの差に応じて80%以上の精度で分離することに成功しました。これにより、「分子機械」と微小流体デバイスの融合によるナノシステムの設計法を提案しました。

図:微小管分離システムの模式図。微小管が特性(電荷・硬さ)に応じて自律的に異なる場所へ運動する。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1126/scirobotics.aan4882

Naoto Isozaki, Hirofumi Shintaku, Hidetoshi Kotera, Taviare L. Hawkins, Jennifer L. Ross and Ryuji Yokokawa (2017). Control of molecular shuttles by designing electrical and mechanical properties of microtubules. Science Robotics, 2(10), eaan4882.

  • 京都新聞(9月29日 29面)および日刊工業新聞(9月28日 30面)に掲載されました。