精子幹細胞を使った人工染色体導入マウスの作成 -新規ヒト疾患モデル動物作成・男性不妊症治療法開発に期待-

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篠原隆司 医学研究科教授、香月康宏 鳥取大学准教授、小倉惇郎 理化学研究所バイオリソースセンター室長、鈴木輝彦 東京都医学総合研究所主席研究員らの研究グループは、精子幹細胞への人工染色体導入法を開発し、人工染色体導入マウスの作成に成功しました。これまで一般的に用いられてきた受精卵やES細胞を用いた染色体導入に比べ、培養中の染色体異常が起きにくく、染色体導入マウスを効率的に作成することができます。ヒトの疾患を再現したモデル動物作成や、染色体を導入しての男性不妊症治療につながる成果です。

本研究成果は、2017年9月22日に米国の科学誌「Stem Cell Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

今後幅広い動物種の精子幹細胞(Germline Stem Cellの略。以下、GS細胞)を用いることで人工染色体を用いた遺伝子改変動物作成が可能になり、よりヒトに近い疾患モデル動物の作成に繋がると予想されます。
また、染色体異常が原因の男性不妊症研究にも応用の可能性を持っています。今回の手法の確立により、男性不妊症の発生メカニズムの理解や新たな治療法の開発に役立つと期待されます。

概要

動物の遺伝子を組み替える際、通常はメス由来の受精卵やES細胞が用いられます。これらの細胞を用いた遺伝子導入法では数千-数万塩基対程度のDNAを導入して遺伝子改変動物を作成することができます。実際にマウスを中心とした多くの遺伝子改変個体が作成され、研究に用いられています。

しかし、受精卵への大きなサイズのDNA導入は現在も困難であり、染色体のように大きなDNAを受精卵へ導入してもうまくいかないのが現状です。一方、ES細胞を用いれば数千万塩基対もある人工染色体を導入できることが以前に報告されていましたが、ES細胞では長期培養の間に染色体異常が起こりやすく、人工染色体を導入しても脱落してしまう例が多いという問題がありました。またES細胞を初期胚に注入して出来るキメラマウス個体においても、ES細胞由来の生殖細胞で人工染色体が脱落しやすく、全身の細胞に人工染色体が入った染色体導入マウスの作成は効率の悪いものでした。

今回の研究では、GS細胞へ人工染色体を導入することでこれらの問題を克服しました。GS細胞は生殖細胞の中で唯一自己複製能力を持ち、個体の精子形成の源になります。つまり、自己複製能を持ち遺伝情報を次世代に伝えることができる点ではES細胞と同等の能力を持つ細胞と言えます。私たちのグループが世界に先駆けて長期培養に成功したGS細胞は試験管内では幹細胞として増殖しますが、不妊個体の精巣に移植すると精子形成を再開して精子を作ることができます。また、この方法の開発によりES細胞を用いた場合と比較して、より安定かつ迅速に人工染色体導入マウスを作成することが可能になりました。

図:人工染色体導入マウス作成イメージ

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2017.08.012

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227222

Takashi Shinohara, Kanako Kazuki, Narumi Ogonuki, Hiroko Morimoto, Shogo Matoba, Kei Hiramatsu, Kazuhisa Honma, Teruhiko Suzuki, Takahiko Hara, Atsuo Ogura, Mitsuo Oshimura, Mito Kanatsu-Shinohara, Yasuhiro Kazuki (2017). Transfer of a Mouse Artificial Chromosome into Spermatogonial Stem Cells Generates Transchromosomic Mice. Stem Cell Reports, 9(4), 1180-1191.

  • 京都新聞(9月22日 21面)に掲載されました。