マウス卵母細胞の形成機構を解明 -多能性幹細胞から卵母細胞を液性因子のみで誘導することに成功-

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公開日

斎藤通紀 医学研究科教授および宮内英孝 同技術補佐員は、マウス卵母細胞の形成機構を解明し、マウス多能性幹細胞から卵母細胞を液性因子(細胞から分泌され、他の細胞の運命決定などに影響するタンパク質や小分子)により誘導することに成功しました。

本研究成果は、2017年9月19日午後8時に欧州分子生物学機構の科学誌「The EMBO Journal」のオンライン速報版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から斎藤教授、宮内技術補佐員

本研究は、卵子形成開始となる性分化(卵母細胞の分化)を理解する基礎となり、その応用として生体材料を用いない多能性幹細胞からの卵子形成法の開発のさきがけとなるものです。今後は卵母細胞から機能的な卵子形成までの分化機構の理解とその応用、ヒト始原生殖細胞様細胞の分化促進、ひいては卵子形成への方法論の開発を推進します。

本研究成果のポイント

  • マウス卵母細胞の誘導に必要十分な因子を同定
  • マウス多能性幹細胞から卵母細胞を液性因子のみで誘導することに成功
  • 誘導された卵母細胞は胎児卵母細胞の特性を獲得

概要

本研究グループは、マウス多能性幹細胞(自己複製能力と、身体を構成するほぼ全ての細胞に分化する能力を持つ細胞)から始原生殖細胞様細胞(卵子もしくは精子の起源となる細胞に非常によく似た性質を持つ細胞)を誘導し、生殖細胞欠損マウスの精巣に移植することで精子を、胎児卵巣の体細胞と凝集培養することで卵子を作成し、それらから健常な産仔を得ることに成功してきました。しかし、これらの方法では生殖細胞の分化に生殖巣(精巣や卵巣)の体細胞を必要としてきました。

本研究では、マウス卵母細胞(胎児期に始原生殖細胞から分化する雌性の生殖細胞)の形成機構を解析し、始原生殖細胞から卵母細胞への分化を誘導する因子として、骨形成因子(bone morphogenetic protein: BMP)とレチノイン酸(ビタミンA)を同定しました。本研究グループは、ES細胞から始原生殖細胞様細胞を誘導し、これまでに開発した方法を用いて始原生殖細胞様細胞を増殖させ、BMPとレチノイン酸を加え、始原生殖細胞様細胞をほぼ全て卵母細胞に分化させることに成功しました。誘導された卵母細胞はその最も際立った特徴である減数分裂を開始し、またその遺伝子発現は生体内の胎児卵母細胞に酷似していました。

本研究は、多能性幹細胞から生体材料を用いず卵子を形成する方法開発のさきがけとなります。今回の研究によって、卵母細胞が誘導される詳細な分子機構の解明が促進され、また、ヒト多能性幹細胞からヒト卵母細胞を誘導する研究が促進されることが期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.15252/embj.201796875

Hidetaka Miyauchi, Hiroshi Ohta, So Nagaoka, Fumio Nakaki, Kotaro Sasaki, Katsuhiko Hayashi, Yukihiro Yabuta, Tomonori Nakamura, Takuya Yamamoto, Mitinori Saitou (2017). Bone morphogenetic protein and retinoic acid synergistically specify female germ-cell fate in mice. The EMBO Journal, 36(21), 3100-3119.

  • 京都新聞(9月20日 26面)、産経新聞(9月30日 25面)、日刊工業新聞(9月20日 27面)、日本経済新聞(9月20日 38面)、毎日新聞(9月23日 25面)および読売新聞(10月2日夕刊 9面)に掲載されました。