肺MAC症原因菌が進化する仕組みを解明

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丸山史人 医学研究科准教授、矢野大和 東北大学講師、岩本朋忠 神戸市環境保健研究所部長らの研究グループは、肺疾患を引き起こす細菌の系統である Mycobacterium avium complex(以下、MAC)の中の1グループ、 M. avium subsp. hominissuis (以下、MAH)のゲノムを初めて集団規模で比較解析しました。その結果、MAHは遺伝子を他の種から頻繁に獲得していること、さらにMAHは進化の過程で異系統間での染色体の組み換え(有性生殖)を行っていることが分かりました。これらは結核菌には見られない特徴です。

本研究結果は、2017年9月8日にオープンアクセス誌「Genome Biology and Evolution」(電子版)に掲載されました。

研究者からのコメント

今後日本における環境分離株のゲノム情報を増やすことで、 各ニッチ(人や浴室)への適応に関わる突然変異や対立遺伝子を同定することが可能になると考えられます。また全ゲノム解析から得られた知見を出発点として、MACの病原性の原理の解明や肺MAC症の治療及び予防法の開発が進むと期待されます。

概要

日本では肺結核の減少とは対照的にMACという系統の細菌による肺疾患、肺MAC症が増加しています。2016年の調査では、国内で10万人中15人程度の罹患率とされており、今後も患者数が増える見通しです。しかし、病原体についてのゲノム情報が不足しており、肺MAC症の効果的な治療方法は確立されていません。

本研究グループは、日本の患者、ブタ、浴室から分離した計12株のMAHのゲノムを解読し、ヨーロッパ、北アメリカ、アジアから分離した株のゲノムデータと合わせて、MAHが結核菌と比べどの程度遺伝的に多様な種なのか、日本人に感染している系統はどれなのか、東アジア系統に特徴的な遺伝子はあるのか、という3点を検証しました。

その結果、MAHは種外から積極的に新しい遺伝子を取り込んでいる種であると推定できました。加えて、日本人が感染することの多いMAHの系統は、染色体の幾つかの場所に他系統が持つものとは配列が大きく異なる対立遺伝子を保有しており、それらが染色体間を移動していることが分かりました。本研究グループはこれらから、MAHが他の種から獲得した有用遺伝子を集団内に積極的に拡散することで地域環境に適応していることを発見しました。

図:MACの地域適応モデル。近縁種や種内の様々な系統の遺伝子を取り込んで適応していく。矢印は細胞の流れ、点線はDNAの流れを意味する。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1093/gbe/evx183

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227171

Hirokazu Yano, Tomotada Iwamoto, Yukiko Nishiuchi, Chie Nakajima, Daria A. Starkova, Igor Mokrousov, Olga Narvskaya, Shiomi Yoshida, Kentaro Arikawa, Noriko Nakanishi, Ken Osaki, Ichiro Nakagawa, Manabu Ato, Yasuhiko Suzuki, Fumito Maruyama (2017). Population structure and local adaptation of MAC lung disease agent Mycobacterium avium subsp. hominissuis, Genome Biology and Evolution, 9(9), 2403–2417.