高エネルギーX線散乱を用いた新たなリチウムイオン電池評価法を確立

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内本喜晴 人間・環境学研究科教授らの研究グループは、高輝度光科学研究センター、群馬大学、立命館大学、ノースイースタン大学(米国)、アントワープ大学(ベルギー)、AGH科学技術大学(ポーランド)と共同で、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギーの放射光X線を利用した実験と理論計算の併用により、蓄電池の性能を決める電子軌道の可視化に成功しました。

本研究成果は、2017年8月23日に米国科学振興協会(AAAS)のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究で開発した手法を用いて、電池動作を原子レベルで理解したり、診断したりできるようになり、大容量で高速充放電可能な高性能電池の設計・開発が進むものと期待されます。

本研究成果のポイント

  • 高エネルギーX線散乱実験と理論計算の併用により、リチウムイオン電池の性能を決める電子軌道の可視化を行った。
  • 散乱X線を解析することにより、電池内の電位シフトをモニターできることを示した。
  • リチウムイオン電池の診断や高性能化に貢献することが期待される。

概要

リチウムイオン電池では、リチウムの伝導電子が正極材料物質に移動することで、電流が発生します。正極材料物質が電子を受け取ったときに、その電子が収まる電子軌道を酸化還元軌道と呼んでいます。酸化還元軌道は電位や電池容量などの電池性能を決める重要な因子として知られていますが、実験上の難しさにより、その状態は明らかにされていませんでした。

本研究グループは、100keV以上の高エネルギーX線を用いたコンプトン散乱法という手法により、安全かつ高性能な蓄電池極材として知られるオリビン型リン酸鉄リチウムを測定し、高信頼度の理論計算と連携することにより、オリビン型リン酸鉄リチウムの多結晶体試料から酸化還元軌道の可視化に成功しました。

その結果、酸化還元軌道は正極材料物質の結晶歪みの具合によって大きく変化するだけでなく、酸化還元軌道の状態変化は重要な電池性能の一つである電位の変化に比例していることがわかりました。すなわち、この知見を応用することで、高エネルギーX線を利用したコンプトン散乱法により電位シフトを計測できます。

図:正極材料物質:オリビン型リン酸鉄リチウムの結晶構造

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1126/sciadv.1700971

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/227000

Hasnain Hafiz, Kosuke Suzuki, Bernardo Barbiellini, Yuki Orikasa, Vincent Callewaert, Staszek Kaprzyk, Masayoshi Itou, Kentaro Yamamoto, Ryota Yamada, Yoshiharu Uchimoto, Yoshiharu Sakurai, Hiroshi Sakurai and Arun Bansil(2017). Visualizing redox orbitals and their potentials in advanced lithium-ion battery materials using high-resolution x-ray Compton scattering. Science Advances, 3(8), e1700971.

  • 科学新聞(9月8日 2面)に掲載されました。