研究成果

黄砂飛来の翌日に急性心筋梗塞が増える可能性


2017年09月11日


     上田佳代 工学研究科准教授、小島淳 熊本大学特任准教授、道川武紘 国立環境研究所主任研究員らの研究グループは、工学院大学、国立循環器病研究センターと共同で、熊本大学が熊本県内の医療機関や熊本県との協力の下で実施している、急性心筋梗塞登録事業のデータを利用した環境疫学研究を行い、アジア大陸の砂漠域に由来する黄砂が心筋梗塞の発症と関連していることを明らかにしました。

     本研究成果は、2017年8月29日に循環器専門誌「European Heart Journal」に掲載されました。

    研究者からのコメント

     私たちは、環境衛生、医学、大気環境分野にまたがる共同研究で、黄砂曝露と急性心筋梗塞発症との関係性を明らかにしました。また、慢性腎臓病などの背景因子があると、黄砂の影響を受けやすくなる可能性を示したのは世界初です。私たちは、今後さらに研究を進めて、黄砂や大気環境による健康影響の予防につなげていきたいと考えています。

    概要

     アジア大陸の砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)にある黄砂が風で舞い上がり、季節風に乗って日本へ長距離輸送されてくることがあります。輸送途中で大気汚染物質や微生物などが付着してくることから、黄砂曝露(ばくろ)による健康影響が懸念されており、日本において黄砂飛来後にアレルギー疾患、呼吸器疾患、循環器疾患が増加したということが報告されています。中でも循環器疾患は発症すると生命に関わる場合が多いので、黄砂と循環器疾患の関連について詳細な検討を行い、黄砂の影響で循環器疾患が発生しやすくなるような背景要因を明らかにしていくことが課題でした。

     本研究グループは、循環器疾患の中でも急性心筋梗塞に注目しました。黄砂が比較的多く観測される九州地方の中でも、熊本県内で発症した急性心筋梗塞を網羅的に登録している「熊本急性冠症候群研究会」のデータベースを用いて、黄砂と急性心筋梗塞発症との関連を解析しました。データベースには急性心筋梗塞患者の背景要因(年齢、性別、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病など)も登録されており、どのような背景があると黄砂の影響を受けやすいのかについても検討が可能です。

     解析の結果、黄砂が観測された翌日に急性心筋梗塞を発症するオッズ比(相対危険度の近似値)は1.46(95%信頼区間1.09-1.95)であり、黄砂が観測された後に急性心筋梗塞患者が増えるという関連性が明らかになりました。この関連性は、微小粒子状物質(PM2.5)、光化学オキシダント、二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物質の影響を考慮しても変わりませんでした。また、患者の背景要因で群分けを行った上で黄砂と心筋梗塞との関連性を検討したところ、75歳以上の高齢者、男性、高血圧、糖尿病、非喫煙者(※)、慢性腎臓病で、黄砂と急性心筋梗塞発症に関連性があることがわかりました。中でも、慢性腎臓病のある方は、ない方と比べて有意に黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を起こしやすいという結果でした。

     (※)本研究では、黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を起こしやすくするような背景要因について検討を行い、非喫煙者の方が黄砂の影響を受けやすい可能性を示しましたが、黄砂による急性心筋梗塞の発生予防として喫煙を薦めるものではありません。

    図:心筋梗塞発症前日の黄砂と心筋梗塞との関連に関する背景要因による群分けの結果(オッズ比が高いほど心筋梗塞のリスクが高いことを示す)

    *心筋梗塞当日および2~5日前の黄砂、気温、湿度で調整
    **慢性腎臓病の有無により統計学的に有意に黄砂と急性心筋梗塞との関連が異なる

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehx509

    Sunao Kojima, Takehiro Michikawa, Kayo Ueda, Tetsuo Sakamoto, Kunihiko Matsui, Tomoko Kojima, Kenichi Tsujita, Hisao Ogawa, Hiroshi Nitta, Akinori Takami (2017). Asian dust exposure triggers acute myocardial infarction. European Heart Journal, ehx509.

    • 産経新聞(9月5日 24面)に掲載されました。

    黄砂飛来の翌日に急性心筋梗塞が増える可能性
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