動物園のニホンイヌワシ、200年後も残すには対策が必須

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村山美穂 野生動物研究センター教授らの研究グループは、英国・エディンバラ大学や秋田市大森山動物園と共同で、動物園で飼育されているニホンイヌワシの持続性をシミュレーションしました。その結果、現在飼育されている二ホンイヌワシが156年で絶滅する恐れが高いことが分かりました。200年後まで持続する条件を検討したところ、繁殖参加つがい数を3つがいから6つがいに増やすこと、10年に1度野生の個体を雌雄一組加えること、という2つの対策をとると、200年後にも100羽程度のグループを安定して維持できるとのシミュレーション結果が得られました。

本研究成果は、2017年7月19日に国際保全生物学会の学会誌「Biological Conservation」に掲載されました。

研究者からのコメント

今後、本研究で示唆された繁殖条件の実現可能性を、動物園の飼育担当者と検討し、より効果的な繁殖戦略を模索します。また繁殖したニホンイヌワシの野生への再導入についても、動物園関係者、野生の生態研究者、環境省と検討を行っていきます。

加えて、ニホンイヌワシの全ゲノム解読も進行中です。他の地域のイヌワシとゲノム情報を比較することで、ニホンイヌワシの遺伝的多様性や野生集団の持続性を検討する予定です。

概要

動物園である程度の個体数を確保しておくことは、野生集団の個体数や遺伝的多様性が危機に瀕した場合に、飼育している個体を野生復帰させ生態系全体をより良い状態へ導くために必要不可欠な資源です。この持続性を解明し効果的な繁殖戦略を検討することは、安全な施設における絶滅の恐れのある種の保護や、増やした生き物を生息地に戻す計画を立てる際に必要不可欠であり、野生集団の保全にとっても非常に重要です。

ニホンイヌワシ( Aquila chrysaetos japonica )は絶滅危惧種に指定されている大型猛禽類です。推定500羽が野生で生息しており、保全のための研究が40年以上続けられています。また、2014年時点で日本の8動物園において27羽が飼育されており、血統登録簿に基づく繁殖が推進されています。しかし、動物園で飼育している環境下での持続性については未解明でした。

本研究グループは、秋田市大森山動物園の協力を得て、2014年時点で飼育されていた27個体の遺伝的多様性を解析しました。また、血縁関係、繁殖可能な年齢、卵の孵化成功率、各年齢での死亡率などを血統登録簿から推定し、今後200年間で個体数がどのように推移するのかシミュレーションしました。血統登録簿に加え、実際の繁殖戦略(毎年3つがいを重点的に繁殖させる、近親交配を防ぐためにつがいの組み合わせに制限を設けるなど)を可能な限り再現しました。その結果、現在飼育されているグループは156年後に絶滅する恐れが高いことが分かりました。また、100年後にはミトコンドリアDNAの遺伝的多様性の68.5%、核DNAの遺伝的多様性の10.6%が失われると推定されます。

絶滅を避ける条件を検討した結果、繁殖参加つがい数を3つがいから6つがいに増やすこと、野生から新規に2個体が10年に1度の間隔で加入することを組み合わせた場合に、200年後も100羽付近で安定して存続すると推定されました。また対策を取った場合の遺伝的多様性減少は、100年後にはミトコンドリアDNA32.8%、核DNA7.8%、200年後にはミトコンドリアDNA34.9%、核DNA9.2%に留まりました。

図:飼育下のニホンイヌワシの個体数や遺伝的多様性の変動予測

a) 実際の繁殖戦略に基づく場合
b) 繁殖つがい数を3つがいから6つがいに増やした場合
c) 10年に一度野生から雌雄1羽ずつを新規に加えた場合
d) b)とc)を組み合わせた場合
e) 野生から雌雄1羽ずつを2年に一度新規に加えた場合
f) 2年に一度雌雄1羽ずつを野生から加え、同時に野生復帰させた場合

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.biocon.2017.07.008

Y. Sato, R. Ogden, M. Komatsu, T. Maeda, M. Inoue-Murayama (2017).Integration of wild and captive genetic management approaches to support conservation of the endangered Japanese golden eagle. Biological Conservation, 213, Part A, 175-184.

  • 読売新聞(9月25日夕刊 11面および26日 31面)に掲載されました。