研究成果

大規模ゲノム解析から明らかとなった低悪性度神経膠腫における遺伝学的予後予測因子


2017年08月22日


     小川誠司 医学研究科教授、夏目敦至 名古屋大学准教授、青木恒介 同特任助教らの研究グループは、熊本大学、九州大学、大分大学、東京女子医科大学と共同で、大規模ゲノム解析の結果を用いて、低悪性度神経膠腫各群にて特定の遺伝子変異を持つ腫瘍では、患者予後(病気になった方の医学的見通し)が悪いことを明らかにしました。

     本研究成果は、国際科学誌「Neuro-Oncology」(2017年7月18日付けの電子版)に掲載されました。

    研究者からのコメント

     今回の解析により、低悪性度神経膠腫各subtypeにおける複数の遺伝学的、臨床的予後不良因子を同定することができました。多くのsubtypeでは、今回同定した予後不良因子を用いることで、現在、腫瘍の悪性度の指標として用いられているWHO gradeよりも正確に患者予後を予測することが可能となります。また、IDH野生型低悪性度神経膠腫においては、同定した予後不良因子を持つ群と持たない群は生物学的に異なる腫瘍であることが示唆され、IDH野生型低悪性度神経膠腫を、より正確に理解する大きな助けとなると考えられます。

    概要

     低悪性度神経膠腫(WHO grade IIもしくはIII)は、進行は緩徐ですが、浸潤性に増殖する原発性脳腫瘍です。低悪性度神経膠腫において、遺伝子異常と患者予後の関係について、網羅的な解析はほとんど報告されていませんでした。

     本研究グループは、次世代シークエンサー等を用いて網羅的に遺伝子異常の解析を行った308例の日本の症例と、公開データであるThe Cancer Genome Atlas(2006年開始の米国国家プロジェクト)の症例を対象とし、昨年改定されたWHO分類に従い、各subtypeに分けた上で、遺伝子異常が患者予後に与える影響について検討しました。

     解析の結果、Oligodendroglioma IDH-mutant/1p19q-codel(病理学的に星状細胞腫や乏突起細胞腫と診断された腫瘍の中で、IDH12 変異と1p/19q共欠損を持つもの)ではNOTCH1変異を持ち、手術で腫瘍を全摘出できなかったこと、Astrocytoma IDH-mutant(同腫瘍の中で、IDH12 変異は持つが1p/19q共欠損を持たないもの)ではPIK3R1変異を持つか、もしくはretinoblastoma(RB)経路に関わる遺伝子群(CDK4CDKN2ARB1)に異常を持つことが分かりました。また、IDH野生型(IDH12が遺伝子変異していない腫瘍)低悪性度神経膠腫ではTERTプロモーター変異、染色体7p増幅、10q欠損をすべて持つこと、そしてWHO grade IIIが患者の予後不良と有意な関連があることも分かりました。

     IDH野生型低悪性度神経膠腫において、同定した因子を一つ以上持つ群(高リスク群)と因子を持たない群(低リスク群)は、患者の生存期間や年齢、DNAメチル化のパターンなどの点で大きく異なっており、生物学的に異なる腫瘍であることが示唆されました。本研究成果は、低悪性度神経膠腫患者の予後をより正確に予測し、最適な治療を実践していく上で、非常に重要な知見と考えられます。

    図:同定した予後不良因子の有無によって分けた生存曲線

    (A)日本のコホートのOligodendroglioma IDH-mutant/1p19q-codel
    (B)TCGAコホートのOligodendroglioma IDH-mutant/1p19q-codel
    (C)日本のコホートのAstrocytoma IDH-mutant
    (D)TCGAコホートのAstrocytoma IDH-mutant。比較のためIDH変異型膠芽腫も一緒に記載。
    (E)日本のコホートのIDH野生型低悪性度神経膠腫
    (F)TCGAコホートのIDH野生型低悪性度神経膠腫。比較のためIDH野生型膠芽腫も一緒に記載。

    詳しい研究内容について


    大規模ゲノム解析から明らかとなった低悪性度神経膠腫における遺伝学的予後予測因子
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