腸で鉄の吸収を調節するメカニズムの一端を解明 -貧血時に鉄吸収を促進するフィードバック機構を発見-

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竹内理 ウイルス・再生医科学研究所教授、吉永正憲 医学研究科博士課程学生らの研究グループは、大阪大学、東京大学、兵庫医科大学と共同で、RNA分解酵素Regnase-1が鉄代謝に関連する遺伝子のmRNA(遺伝情報をタンパク質へ翻訳するために情報を伝達する核酸)を分解することで、貧血時に鉄の吸収を促進することを解明しました。本研究は、慢性炎症における鉄代謝制御機構、貧血などの鉄代謝異常による疾患の病態解明や、新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、2017年5月24日午前1時に米国の科学誌「Cell Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究では、Regnase-1が腸管での鉄吸収にとって重要な因子であることを解明しました。今後ヒトの貧血や鉄代謝異常におけるRegnase-1の役割を検討することで、これら疾患のさらなる病態解明に発展することが期待されます。また、Regnase-1の活性を調節することで、これらの疾患の治療につながることが期待されます。

概要

鉄は生体にとって非常に重要な元素の一つです。体内の鉄の量が不足すると貧血を生じ、逆に過剰になると臓器が機能不全を起こすヘモクロマトーシスといった疾患の原因になります。したがって生物の体内での鉄の量は、さまざまな仕組みにより厳密に調節されています。鉄代謝を制御する機構の一つとして、関連する遺伝子のmRNAの安定性を調節する機構の重要性が知られています。既に鉄代謝にかかわるmRNAを安定化する因子は判明しており、研究が進められています。しかし、鉄代謝にかかわるmRNAの分解を促進する機構はほぼ明らかになっていませんでした。

本研究グループは、鉄代謝にかかわるタンパク質のなかでトランスフェリン受容体(体内で鉄イオンの輸送を担うトランスフェリンに結合した血中の鉄を、細胞内に取り込むための受容体)とPHD3(腸での鉄吸収にかかわる遺伝子の転写を活性化することが知られている、転写因子HIF2αの分解を誘導する酵素)のmRNAを、Regnase-1が分解することを解明しました。また、Regnase-1はPHD3のmRNAを分解することでHIF2αを安定化させ、腸管での鉄吸収を促進する役割があることを明らかにしました。さらに、Regnase-1自身がHIF2αの標的遺伝子であり、Regnase-1、PHD3、HIF2αの三者からなる正のフィードバック機構が腸管での鉄吸収を調節していることを発見しました。

図:Regnase-1による腸管の鉄吸収調節モデル

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.celrep.2017.05.009

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/224949

Masanori Yoshinaga, Yoshinari Nakatsuka, Alexis Vandenbon, Daisuke Ori, Takuya Uehata, Tohru Tsujimura, Yutaka Suzuki, Takashi Mino, and Osamu Takeuchi (2017). Regnase-1 Maintains Iron Homeostasis via the Degradation of Transferrin Receptor 1 and Prolyl-Hydroxylase-Domain-Containing Protein 3 mRNAs. Cell Reports, 19(8), 1614-1630.