研究成果

酵素を1分子ずつナノメートルの精度で狙い通りに並べる -多段階の反応が効率的に進行する分子コンビナート-


2017年06月01日


     森井孝 エネルギー理工学研究所教授、中田栄司 同准教授らの研究グループは、あらかじめDNAナノ構造体に設定した位置を読み取り結合するモジュールを作成し、複数種類の酵素を狙った場所へ1分子ずつ正確に並べることに成功しました。本研究成果により、自在に酵素を組み合わせ、より複雑な連続反応の高効率化や新しい人工代謝経路を可能にする「分子コンビナート」の創製が期待されます。

     本研究成果は、2017年5月18日に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に掲載されました。

    研究者からのコメント

     今回の研究では、モジュール型アダプターの種類を増やすことでDNAナノ構造体上に3種類の酵素を1分子ずつナノメートル精度の距離で並べることができるようになりました。本研究の成果を応用して、今後さらにモジュール型アダプターの種類を増やすことで、より複雑な多段階反応を「分子コンビナート」で実現できます。また、単に複数の酵素を混ぜ合わせただけでは進行しないような多段階の反応が「分子コンビナート」で達成できると期待できます。さらには、細胞内の連続する代謝反応を効率よく細胞の外で再現するだけでなく、生物にはできない反応を組み合わせた人工代謝反応を実現することも可能だと考えています。

    本研究成果のポイント

    • あらかじめDNAナノ構造体に設定した位置を読み取り結合するモジュールを作成し、複数種類の酵素を狙った場所へ1分子ずつ正確に並べることに成功
    • 生体内の代謝反応のような、多段階の反応を触媒する複数種類の酵素を自在に配置した反応場「分子コンビナート」を創ることに成功
    • 単純に酵素を混ぜ合わせたよりも高効率な多段階反応の進行を達成。空間配置を変えるとさらに反応効率が高まることを確認
    • 開発した技術を用いて自在に酵素を組み合わせ、より複雑な連続反応の高効率化や、単に酵素を混ぜ合わせただけでは達成できない、新しい人工代謝経路を可能にする「分子コンビナート」の創製を期待

    概要

     細胞の中は雑然としているようでありながら、酵素などの分子が、さながら製品を効率よく生み出すためのコンビナートのように、整然と並んでいます。この「分子コンビナート」を細胞の外で構築することができれば、効率のよい物質生産システムとしての利用が期待できます。分子コンビナートを試験管で構築するには、段階的な反応が効率よく連続して進むように、ナノメートルのサイズの酵素を1分子ずつ、決まった場所に並べることが必要です。そのために、それぞれの酵素を決まった位置に高い精度で並べる足場を用意する必要があります。

     今回の研究では、足場の構築にDNAによって成形されるナノ構造体「DNAオリガミ」を利用しました。DNAオリガミには、様々な配列のDNAを番地として導入することができます。これまでの研究で、DNAオリガミに導入した特定の「番地」へ酵素を運ぶための案内役(アダプター)の開発を行ってきました。特定のDNA配列にのみ結合するタンパク質をアダプターとして利用し、目的の酵素にアダプターを融合することで、DNAオリガミ上の決まった番地に酵素を並べることに成功しています。さらに、ほぼ100%の割合で決まった番地に安定に配置できる、モジュール型アダプター(特定の基質と共有結合を形成することができるタグタンパク質とDNA結合性タンパク質を融合したもの)を開発しました。 しかし、これまでは1種類のモジュール型アダプターだけしか開発されていなかったため、多段階反応の再現に必要ないくつもの種類の酵素を狙った場所に並べることは困難でした。

     そこで本研究グループは、モジュール型アダプターを構成するDNA結合性タンパク質とタグタンパク質を3種類ずつ用意し、それらを組み合わせた9種類のモジュール型アダプターを設計しました。それらの中から、狙った番地だけに迅速かつ100%近くの収率で安定に配置できる、3種類のモジュール型アダプターを選びました。DNAナノ構造体上の番地に配置されたモジュール型アダプターを、実際に原子間力顕微鏡で観察すると、これら3種類のモジュール型アダプターは、理論上の上限値の90%以上がDNAナノ構造体の決められた番地に配置されていました。また、モジュール型アダプターがどの番地に近づきやすいか、そして、決められた番地に安定な結合によって配置される速度を解析することで、決められた番地にのみ安定に配置できるモジュール型アダプターの設計原理を見出しました。

     さらに、新たに開発したモジュール型アダプターを利用して、キシロースからキシリトール、キシリトールからキシルロース、そしてキシルロースからキシルロース-5-リン酸への代謝反応を触媒する3種類の酵素を並べた「分子コンビナート」を構築しました。

    図:今回の研究で作成した分子コンビナート

    キシロース→キシリトール→キシルロース→キシルロース-5-リン酸の多段階反応を高効率に行う。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 https://doi.org/10.1021/jacs.7b01640

    Thang Minh Nguyen, Eiji Nakata, Masayuki Saimura, Huyen Dinh and Takashi Morii (2017). Design of Modular Protein-Tags for the Orthogonal Covalent Bond Formation at Specific DNA Sequences. Journal of the American Chemical Society.


    酵素を1分子ずつナノメートルの精度で狙い通りに並べる -多段階の反応が効率的に進行する分子コンビナート-
    現在の画像 JPEG image — 6 KB