イオンの流れを光によってスイッチングできる固体材料の合成に成功 -イオンを用いたメモリやトランジスタへの応用に期待-

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堀毛悟史 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)准教授、北川進 同拠点長・教授、オード・デメッセンス フランス国立科学研究センター研究員らの共同研究グループは、金属イオンと有機物からなる結晶中で、イオンの流れを光でスイッチングできる新たな材料の合成に成功しました。

本研究成果は、2017年4月10日発行のドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版にHot paperとして公開されました。

研究者からのコメント

さまざまなイオンの振る舞いを固体中で操ることができれば、エレクトロニクスとは異なる電子デバイスや触媒用途への可能性が広がります。今回用いた材料である「配位高分子」は、結晶中に緻密に金属や分子を配置できること、無機物と有機物の中間の機械特性(材料に対して引っ張りや圧縮といった外力をかけたとき、その物体がどのような変化を示すかという力学的応答性)などの材料としての利点をもちます。本研究ではこれらの結晶融解現象を利用しており、液体から固体に戻すときに工夫すれば膜や線材などの形状に加工することも可能であること、プロトン以外のイオンのスイッチングも可能であることから、本研究の成果を応用することで、固体中でイオンの流れを制御する材料科学とその応用研究を発展させることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • 従来の手法では光などの刺激により、固体中でイオンの流れをスイッチするイオン伝導体の設計は困難だった。
  • 金属と有機分子からなる「配位高分子」と呼ばれる結晶を用い、イオン輸送のオン/オフを光によって制御する材料を開発した。
  • 光によるイオン制御機構を有するメモリやトランジスタなどへの応用が期待される。

概要

固体中でさまざまなイオンを伝導、輸送する物質(固体イオン伝導体)は、例えば携帯電話の電池や、水素ガスと酸素ガスから電力を作る燃料電池を搭載した車の性能や安全性の向上に必須の材料です。このようなイオン伝導体は、ある温度で電圧を加えるとイオンを流し始めますが、電圧だけではなく、光のような刺激によってイオンの流れを任意にスイッチできれば、電池用途にとどまらないデバイス応用の可能性が生まれます。しかし従来はこのように固体の状態で刺激に応答するイオン伝導体の設計は困難でした。

そこで本研究グループは、金属イオンと有機物が結合してできる「配位高分子」と呼ばれる結晶材料を用い、その結晶の内部に光応答性(光の照射によって物質の性質が可逆的に変化する現象)をもつ分子を均一に分散させることにより、新たな光応答性イオン伝導体の開発を行いました。この材料に光を当てると、イオンの一種である水素イオン(プロトン、H )を伝導するようになり、光を止めるとその伝導も停止します。この機構を応用すれば、不揮発性のメモリや電気を蓄えるコンデンサ、あるいは光駆動するトランジスタなどの研究開発に大きく貢献すると期待されます。

図:(a)プロトン伝導を示す配位高分子結晶の構造、および光によってプロトンの放出・補足を示すピラニン分子。(b)ピラニンをドープした配位高分子試料において光照射をオン/オフしたときのプロトン伝導スイッチング特性

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1002/anie.201700962

Sanjog S. Nagarkar, Satoshi Horike, Tomoya Itakura, Benjamin Le Ouay, Aude Demessence, Masahiko Tsujimoto, and Susumu Kitagawa (2017). Enhanced and Optically Switchable Proton Conductivity in a Melting Coordination Polymer Crystal. Angewandte Chemie International Edition, 56(18), 4976-4981.