ヒトiPS細胞から高効率に血管細胞を作る方法を開発

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山下潤 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)教授らの研究グループは、ヒト多能性幹細胞から高効率に血管内皮細胞を作る技術を開発しました。

本研究成果は、2017年3月14日午前3時に米国のオンラインジャーナル「PLOS ONE」で公開されました。

研究者からのコメント

今回、99%と高い効率で血管内皮細胞へと分化させることに成功しました。この技術は再生医療や3次元組織構築に広く利用されることが期待されます。また本成果を元にした研究用細胞製品が販売されており、新たな研究用ツールとして期待されます。

本研究成果のポイント

  • iPS細胞から高効率に血管内皮細胞を作る方法を確立した。
  • iPS細胞の実用化の一例としてすでに製品化されている。
  • ロット間差がなく安定した実験結果が得られる内皮細胞として有用である。
  • 多様な内皮細胞を作り出す元になる細胞としても利用できる。

概要

血管は全身のさまざまな臓器や組織に備わっており、その形成・維持はもちろん、がん、創傷治癒などの病態においても多彩な役割を果たし、ヒトの生老病死の全ての過程に深く関与しています。血管の内腔を一層に覆う血管内皮細胞は、血管機能の中心的役割を果たしており、さまざまな実験研究に応用されています。従来ヒト血管内皮細胞を用いた研究には、ヒト臍帯などから採取された内皮細胞が多用されていましたが、細胞により性質や反応が異なり一定の結果が出ないなどの欠点がありました。また近年、多能性幹細胞から大きな臓器・組織を作り出す研究が進められていますが、臓器が大きい場合には血管も同時に作れなければ、内部の細胞は酸素や栄養が十分に供給されずに死んでしまうこともあります。そうしたことを回避し幹細胞から高度な組織を作るために、ヒト多能性幹細胞から効率よく血管内皮細胞を誘導する方法は重要です。

本研究グループは、これまでにマウスの多能性幹細胞を使って血管内皮細胞の分化誘導方法を確立し、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)が血管内皮細胞への誘導に必要であり、cAMP(細胞内の仲介物質として働く化合物)がその効果を高めることを示しました。これらのノウハウを応用し、ヒトiPS細胞からの効率的な内皮細胞誘導を試みました。

VEGFとcAMPを用いて分化のステージに応じた刺激を与えるともに、刺激後早いステージでVEGF+cAMP刺激に反応しない細胞を取り除き、血管内皮細胞へと分化誘導しました。すると、途中で細胞を取り除かない場合と比較して高い効率(純度99%以上)と収量で血管内皮細胞へと分化できました。得られた内皮細胞は、臍帯静脈内皮細胞などよりやや幼若で、種々の内皮細胞にさらに分化成熟しうるポテンシャルを有するものと思われました。

図:ヒトiPS細胞から作製した血管内皮細胞

(左)ヒトiPS細胞から高効率内皮細胞誘導(赤:VE-カドヘリン(内皮細胞)、青:細胞核)
(右)ヒトiPS細胞から作製した血管内皮細胞がネットワークを形成する(緑:CD31(内皮細胞)、青:細胞核)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1371/journal.pone.0173271

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218940

Takeshi Ikuno, Hidetoshi Masumoto, Kohei Yamamizu, Miki Yoshioka, Kenji Minakata, Tadashi Ikeda, Ryuzo Sakata, Jun K. Yamashita. (2017). Efficient and robust differentiation of endothelial cells from human induced pluripotent stem cells via lineage control with VEGF and cyclic AMP. PLOS ONE, 12(3): e0173271.

  • 産経新聞(3月14日 26面)、毎日新聞(3月16日 26面)に掲載されました。