熱雑音を測ることでポリマーに埋もれたナノ構造を検出 -走査型熱振動顕微鏡法によるナノスケール表面下構造イメージング-

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小林圭 工学研究科准教授、山田啓文 同教授、八尾惇 豊田工業大学研究員らの研究グループは、原子間力顕微鏡(AFM)を基にした新しい分析手法、走査型熱振動顕微鏡法(Scanning Thermal Noise Microscopy:STNM)を開発し、同手法により厚い高分子膜内部に隠れた、表面下の金ナノ粒子の非破壊検出に成功しました。

本研究成果は、2017年2月17日午後7時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

この実験において、熱雑音(熱ノイズ)という、通常は計測の邪魔になるものに役に立つ情報が潜んでいたことを発見し、私たちもとても驚きました。本研究成果は、非破壊、ナノスケール分解能での表面下構造イメージング確立に向けての大きな前進であり、今後、さまざまな産業、バイオ、医療分野における非破壊ナノ内部診断法実現につながるものと期待されます。

概要

近年、集積回路におけるナノ欠陥分析や細胞内診断など、材料・デバイス解析やバイオ・医療分野においては、ナノ空間分解能をもつ非破壊・非侵襲の内部診断法の開発が強く求められています。

AFMは、原子レベルで尖った探針をもつマイクロスケールの板ばね(カンチレバー)を用いて、探針と試料表面との間にはたらく原子・分子間力を検出し、試料表面の微細形状やナノ物性を計測する手法として広く利用されています。このカンチレバーは、ばね振動系(調和振動系)として、特定の周波数(共振周波数)の外力によって共鳴的に振動し、その周波数応答は共振スペクトルを示します。実は、外部からの人為的な力が全くなくても、周囲の熱揺らぎによって、カンチレバーは原理的に常に振動しています(熱雑音振動=熱振動)。

探針が試料に接触した状態では、カンチレバーの共振周波数は、接触部の試料表面の固さ(=弾性率)に応じて変化しますが、本研究グループは、カンチレバーの上記熱振動の振幅の周波数依存性、つまり熱振動スペクトルからも弾性率を求めることができることを見いだし、探針直下の領域の弾性率を計測することができるSTNMを新たに開発しました。

図:走査型熱振動顕微鏡(STNM)による高分子膜の内部に隠れた金ナノ粒子の可視化の模式図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1038/srep42718

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218310

Atsushi Yao, Kei Kobayashi, Shunta Nosaka, Kuniko Kimura & Hirofumi Yamada. (2017). Visualization of Au Nanoparticles Buried in a Polymer Matrix by Scanning Thermal Noise Microscopy. Scientific Reports, 7:42718.