脊椎後弯や肋骨形成異常を引き起こす新たな遺伝子変異をマウスで発見

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成瀬智恵 医学研究科附属動物実験施設助教、浅野雅秀 同教授、若菜茂晴 理化学研究所チームリーダー、伊川正人 大阪大学教授らの研究グループは、生まれつき重度の脊椎後弯および肋骨異形成を発症する新規遺伝子改変マウスを開発し、脊椎骨や肋骨の形を決める遺伝子群(Hox遺伝子群)が正常に働くためには、発生過程においてそれらの遺伝子群が発現することを抑制している「印」を正確に取り除く必要があることを明らかにしました。

本研究成果は、2017年2月10日に米国の学術誌「FASEB Journal」に掲載されました。

研究者からのコメント

ヒトの脊椎骨や肋骨の形成もHox遺伝子群で制御されていることが知られています。マウスを用いた本研究の成果から、ヒトでもJmjd3(ヒストン脱メチル化酵素)によりHox遺伝子群の発現が制御されており、ヒトの脊椎後弯症や肋骨異形成症でもJmjd3遺伝子の変異が原因である可能性が示唆されます。今後はヒトの脊椎後弯症や肋骨異形成症におけるJmjd3の役割を明らかにすることが重要と考えています。

本研究成果のポイント

  • 生まれつき重度の脊椎後弯および肋骨異形成を生じさせる新規の遺伝子変異であるJmjd3変異を発見した。
  • Jmjd3遺伝子欠損マウスでは、脊椎骨や肋骨の形を決める遺伝子群が発現するのを抑制している「印」が除去されず、その遺伝子群が働く時期が正常マウスに比べて遅れていた。
  • Jmjd3はさまざまな機能を持つが、その中でも「印」を除去する機能が、脊椎骨や肋骨の正常な形成に大事だと考えられた。

概要

生物の体を正確に形づくるためには、多くの遺伝子が適切な時期および場所で働くことが必要です。脊椎骨や肋骨はさまざまな大きさや形をしていますが、Hox群と呼ばれる13種類のタンパク質が適切な時期および場所で働くことによって、脊椎骨や肋骨が正しくできるようになっています。このタンパク質群が体の中に存在する時期や場所が本来の場所から変わってしまうと、脊椎骨や肋骨の異形成が引き起こされることがあります。

Hoxタンパク質群をコードするHox遺伝子群には、適切な時期が来るまではHoxタンパク質を作り出さないように抑制する「印」であるH3K27me3がついています。この印が外れることでHoxタンパク質が作られるようになると考えられていますが、脊椎骨や肋骨の形成過程において、どのタンパク質がH3K27me3の「印」を外すのか、または自然に外れてしまうのかなど、詳しいことはわかっていませんでした。

そこで本研究グループは、Hox遺伝子群のH3K27me3を外すタンパク質がヒストン脱メチル化酵素のUtxおよびJmjd3の二つであると考え、それぞれの機能を失ったマウスを作製しました。

その結果、Utx欠損マウスの骨格には明らかな異常は認められませんでしたが、Jmjd3欠損マウスは脊椎後弯および肋骨の異形成を示しました。また、Jmjd3欠損マウスではHox遺伝子群の発現する時期が正常マウスに比べて遅れていました。

図:Jmjd3欠損マウスは脊椎後弯と肋骨の異形成を示した(左図)。Hox遺伝子は発現を抑制する「印」であるH3K27me3が取り除かれないと発現しないが(右図)、Jmjd3欠損マウスでは、この「印」が適切に取り除かれないため、Hox遺伝子の発現が乱れて脊椎後弯や肋骨の異形成が生じたと考えられた。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1096/fj.201600642R

Chie Naruse, Shinwa Shibata, Masaru Tamura, Takayuki Kawaguchi, Kanae Abe, Kazushi Sugihara, Tomoaki Kato, Takumi Nishiuchi, Shigeharu Wakana, Masahito Ikawa and Masahide Asano. (2017). New insights into the role of Jmjd3 and Utx in axial skeletal formation in mice. FASEB Journal.