低分子化合物との併用による PD-1阻害抗体がん免疫治療効果の大幅な増強

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※「詳しい研究内容について」PDFに一部修正を加えました。(2017年2月1日)

本庶佑 医学研究科客員教授、茶本健司 同特定講師らの研究グループは、PD-1阻害による抗腫瘍効果を大幅に増強する併用治療法を発見しました。低分子化合物とPD-1阻害抗体によりキラーT細胞のミトコンドリアを活性化すると、マウスに移植したがんが急速に退縮し、生存期間が大幅に延長しました。

本研究成果は、2017年1月17日に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、本庶客員教授、茶本特定講師

PD-1抗体によるがん免疫治療法は、これまでの標準治療に抵抗性のあるがんに有効であり、がん治療のあり方を一変させました。しかし、PD-1抗体に有効でない患者も少なからず存在します。今回私たちは、低分子化合物を用いてキラーT細胞のミトコンドリアを活性化させると、がん傷害活性T細胞の増殖に必要なエネルギーが増大し、PD-1阻害抗体によるがん抑制効果を増強できることをマウス治療モデルで証明しました。特に、ミトコンドリアを活性化し、がん抑制効果を増強するベザフィブラートは、高脂血症の薬として臨床で使用されています。本薬剤との併用治療は、PD-1抗体に無効な患者にも有効であると期待され、臨床治験を計画しています。

本研究成果のポイント

  • がん反応性キラーT細胞は所属リンパ節で増殖し、がん局所に移行する。リンパ節切除が外科手術で行われているが免疫治療には有害である可能性がある。
  • ミトコンドリアを活性化する低分子化合物、即ち承認薬であるベザフィブラートとPD-1阻害抗体の併用で腫瘍縮退効果が著しく増強した。
  • ミトコンドリア活性化マーカーがPD-1阻害治療法の有効性判定マーカーになり得る。

概要

PD-1を阻害するとキラーT細胞のブレーキが解除され抗腫瘍効果を発揮します。このPD-1抗体を用いたがん免疫治療法は、従来の奏功率を劇的に改善し世界中から注目されています。しかし、依然として無効な患者も存在します。PD-1阻害による抗腫瘍効果メカニズムを解明し、PD-1抗体の腫瘍抑制効果を増強する併用治療法が求められています。

本研究グループは、活性酸素(ROS)発生剤をPD-1阻害抗体と併用すると、PD-1阻害抗体による抗腫瘍効果が増強されることを発見しました。その過程で、ROSはT細胞のエネルギー制御に重要なmTORとAMPKをそれぞれエフェクターとメモリーT細胞で活性化し、それぞれの下流に共通に存在するPGC-1aを活性化させることを解明しました。PGC-1aはミトコンドリアの活性化に非常に重要な役割を果たしています。PGC-1aを活性化する低分子化合物ベザフィブラートはキラーT細胞内のミトコンドリア由来エネルギーを増大させ、PD-1阻害抗体の腫瘍抑制効果を増強することも証明しました。ベザフィブラートは高脂血症の薬としてすでに臨床で使用されているため、本薬剤とニボルマブとの併用治療の臨床治験を計画しています。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://doi.org/10.1073/pnas.1620433114

Kenji Chamoto, Partha S. Chowdhury, Alok Kumar, Kazuhiro Sonomura, Fumihiko Matsuda, Sidonia Fagarasan and Tasuku Honjo. (2016). Mitochondrial activation chemicals synergize with surface receptor PD-1 blockade for T cell-dependent antitumor activity. PNAS.

  • 朝日新聞(1月17日 3面)、京都新聞(1月17日 26面)、産経新聞(1月17日 26面)、中日新聞(1月17日 29面)、日刊工業新聞(1月17日 23面)、日本経済新聞(1月17日 34面)、毎日新聞(1月17日 4面)および読売新聞(1月17日 33面)に掲載されました。