研究成果

脊髄損傷後早期に、運動機能の回復に重要な役割を果たす脊髄神経細胞を同定 -サル皮質脊髄路損傷後の手指巧緻性回復における脊髄固有ニューロンの寄与-


2017年02月08日


     伊佐正 医学研究科教授、渡邉大 同教授、當山峰道 自然科学研究機構生理学研究所研究員、小林憲太 同准教授、木下正治 弘前大学准教授、小林和人 福島県立医科大学教授、里宇明元 慶應義塾大学教授らの研究グループは、脊髄損傷後早期に脊髄内の神経細胞が運動機能回復に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

     本研究成果は、2017年1月3日に米国の科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」でオンライン公開されました。

    研究者からのコメント

     以前はリハビリで機能回復が起きても、何がどうなっているのかあまり分かっていませんでした。しかし、最近の神経科学の進歩によって、中枢神経系のどの細胞でどのような変化が起きて機能回復が起きてくるかがかなりきちんと分かるようになってきました。今後はその重要な細胞を標的とする治療促進技術の開発を可能にするような研究を進めたいと思います。

    本研究成果のポイント

    • 皮質脊髄路損傷後の回復過程の早期において、脊髄固有ニューロンは回復過程を左右するような重要な役割を果たす。
    • しかし、手指巧緻運動がある程度回復した状態では、脊髄固有ニューロンの回復に対する影響は部分的になる。
    • このように脊髄固有ニューロンが、時期特異的に手指巧緻運動の回復に貢献することが証明された。

    概要

     脊髄を損傷すると手足など身体の各部に運動麻痺が残ることが知られています。しかし多くの脊髄損傷は不全損傷であり、手足の筋肉へとつながる一部の神経経路は損傷を受けずに残っています。この残された神経経路が、運動麻痺の回復に役立つのではないかと考えられてきましたが、詳細は分かっていませんでした。

     そこで本研究グループは、無毒化した遺伝子の運び屋であるウイルスベクターによる最新の神経回路操作技術(ウイルスベクター二重感染法)を駆使して、サルの脊髄のうち皮質脊髄路(大脳皮質運動野から脊髄の運動ニューロンに投射する神経経路)を損傷させた後に見られる手指の巧緻な運動の回復過程において、損傷を免れた脊髄固有ニューロンを介する経路が回復早期に重要な役割を果たすことを、明らかにしました。

    図:皮質脊髄路損傷サルの脊髄固有ニューロンに対するウイルス二重感染法の適用

    A:サルの第4-5頚髄の位置で皮質脊髄路を損傷させて、損傷部位を迂回する脊髄固有ニューロンに逆行性ウイルスベクター(HiRet/FuG-E/NeuRet-TRE-EGFP.eTeNT)と順行性ウイルスベクター(AAV2/DJ-CMV-rtTAV16)の2種類を作用させ、遺伝子を導入した。
    B:二重操作された脊髄固有ニューロンの神経伝達を阻害する薬(ドキシサイクリン:Dox)を一時的に投与する実験(上)と、皮質脊髄路損傷後3から4か月半に渡って継続的に投与する実験(下)を行い、脊髄固有ニューロンがいつ、どのように回復に影響を及ぼすかを調べた。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 http://doi.org/10.1073/pnas.1610787114

    Takamichi Tohyama, Masaharu Kinoshita, Kenta Kobayashi, Kaoru Isa, Dai Watanabe, Kazuto Kobayashi, Meigen Liu and Tadashi Isa. (2017). Contribution of propriospinal neurons to recovery of hand dexterity after corticospinal tract lesions in monkeys. PNAS, vol. 114 no. 3, pp. 604–609.


    脊髄損傷後早期に、運動機能の回復に重要な役割を果たす脊髄神経細胞を同定 -サル皮質脊髄路損傷後の手指巧緻性回復における脊髄固有ニューロンの寄与-
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