鉄鋼材料の簡便なプロセスによる結晶粒超微細化原理を発見 -動的相変態と動的再結晶による高強度・高延性バルクナノ鉄鋼の実現-

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公開日

趙立佳 工学研究科博士課程学生(現コロラド鉱山大学研究員)、柴田曉伸 同准教授、辻伸泰 同教授(学際融合教育研究推進センター構造材料元素戦略研究拠点ユニット(ESISM))らの研究グループは、既存のバルク金属材料の製造プロセスにも適用可能な簡便な加工熱処理プロセスによって鉄鋼材料の結晶粒超微細化を達成する原理を見出しました。

本研究成果は、2016年12月14日にNatureグループのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、辻教授、柴田准教授

鉄鋼材料は、世の中で用いられる金属材料の約95%を占め、高度かつ安全な社会を支えるためになくてはならない優れた材料です。鉄鋼はともすれば古い材料と思われがちですが、人類は鉄の持つポテンシャルをまだまだ引き出し切れていません。ナノメートルスケールの組織制御により優れた力学特性の鉄鋼材料を創出した今回の研究成果は、鉄の秘められた可能性の一端を示すものです。

概要

平均結晶粒径1μm以下の超微細結晶粒金属材料(バルクナノメタル)は、合金元素の添加を必要とせずに従来粒径(数十μm以上)材の4倍にも達する高強度や優れた低温靭性を示すことから、次世代の構造材料としておおいに注目されています。しかし結晶粒超微細化は実験室での特殊なプロセスでしか実現できておらず、大型素材への適用(実用化)が進んでいません。

そこで本研究グループは、0.1%C低炭素鋼において高温相オーステナイトからの動的相変態(高温での加工中に生じる相変態)によって微細フェライトを形成し、それを引き続き動的再結晶させることによって、最小平均粒径0.35μm(350nm)の等軸超微細粒フェライト組織を得ることに成功しました。得られた超微細粒フェライトは引張強さ973MPaの高強度と、全伸び23%の大きな引張延性を示しました。

本研究成果は、力学特性に優れた超微細粒鉄鋼材料の新しい創製原理を見出し、その実用化にも道を拓く重要な成果です。

(a) 本研究で考案した加工熱処理プロセスの履歴図
(b) 得られた超微細粒組織
(c) 得られた超微細粒鋼の応力-ひずみ曲線(力学特性)
(d) 動的相変態と動的再結晶の組合せによる超微細粒組織形成メカニズムを示す模式図

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1038/srep39127

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217608

Lijia Zhao, Nokeun Park, Yanzhong Tian, Akinobu Shibata & Nobuhiro Tsuji. (2016). Combination of dynamic transformation and dynamic recrystallization for realizing ultrafine-grained steels with superior mechanical properties. Scientific Reports, 6:39127.