社会からの隔絶が不安を招く神経メカニズム、マウスで発見 -引きこもりからの社会復帰へ向けた神経科学からのアプローチ-

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成宮周 医学研究科教授、出口雄一 長崎大学准教授らは、他のマウスから隔離して一匹のみで長期間飼育する社会隔離ストレスモデルマウスを作成し、社会隔離ストレスによる不安増強に関与する神経回路メカニズムを解明しました。今回の研究成果はモデルマウスを用いた研究ですが、将来的には社会隔離による不安増強に関与する脳機能メカニズムの解明に役立つと期待されます。

本研究成果は2016年11月23日午前2時に、「Cell Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、成宮教授、出口准教授

今回、社会隔離ストレスによる不安増強に関与する神経回路メカニズムを発見したことにより、今後このメカニズムを標的とした抗不安薬の開発や不安を低減する認知行動療法の開発に貢献することが期待できます。

また、多くの神経細胞において共通すると考えられるシナプス前終末の収縮の新規分子メカニズムも同定しました。今後はこの一般的な分子メカニズムが精神疾患、記憶学習、アルツハイマー病などの神経変性疾患などにおいて重要な役割を果たしているかの検討を行うことにより、脳機能に関連するさまざまな疾患において、新しい治療法の開発に繋がる可能性があると考えられます。

概要

さまざまな原因によって就労や就学などの社会参加を回避し、長期間にわたって自宅に留まる、いわゆる「引きこもり」状態の人は、内閣府が2016年に実施した調査では日本国内の15歳から39歳年代で推計54万1千人に上るとされています。引きこもり期間は7年以上が約35%と最も多く、この長期化の原因の一つは、一旦社会から隔絶してしまうことで不安がより増強され、社会復帰することが困難になってしまうことにあると考えられています。長期化する引きこもり状態の解消は社会全体が解決すべき大きな問題であり、メカニズムを明らかにし解決につなげることは神経科学に与えられた重要な課題です。

そこで本研究グループは、他のマウスから隔離して一匹のみで長期間飼育する社会隔離ストレスモデルマウスを作成し、社会隔離によって不安が増強される脳機能メカニズムの解明を試みました。

その結果、社会隔離ストレスを受けたマウスでは、脳内の側坐核から腹側被蓋野という部分に投射する神経伝達が抑制され不安が強くなること、神経伝達の抑制は投射神経細胞の神経終末で、細胞内において多数のアクチン分子が連結している繊維状構造であるアクチン細胞骨格の重合(1分子の状態のアクチン分子が他のアクチン分子の末端に結合すること)に関わるたんぱく質「mDia」が活性化され、シナプス前終末を収縮させてシナプス伝達効率の低下を引き起こすためであることを発見しました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.10.088

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/217361

Yuichi Deguchi, Masaya Harada, Ryota Shinohara, Michael Lazarus, Yoan Cherasse, Yoshihiro Urade, Daisuke Yamada, Masayuki Sekiguchi, Dai Watanabe, Tomoyuki Furuyashiki and Shuh Narumiya. (2016). mDia and ROCK Mediate Actin-Dependent Presynaptic Remodeling Regulating Synaptic Efficacy and Anxiety. Cell Reports, 17(9) pp. 2405–2417.

  • 朝日新聞(11月23日 33面)、京都新聞(11月23日 23面)、産経新聞(11月23日 25面)、毎日新聞(11月24日 27面)および読売新聞(11月26日夕刊 8面)に掲載されました。