難治性の肉腫、新薬が効く可能性 -血管肉腫ではPD-1/PD-L1の発現と予後が相関する-

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公開日

大塚篤司 医学研究科助教、本田由貴 同博士課程学生、椛島健治 同教授らは、難治性の肉腫である皮膚血管肉腫において、がん細胞ががん免疫の一つであるPD-L1分子を発現しており、かつ多くの免疫細胞がPD-1分子を発現している患者の予後が比較的良いということを確認しました。

本研究成果は2016年11月10日に国際科学誌「Oncoimmunology」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

大塚助教

本研究の発見より、血管肉腫において抗PD-1抗体を投与することによって、腫瘍周囲にあるPD-1を発現した免疫細胞に作用し、抗腫瘍効果を示す可能性が示唆されました。

今後、血管肉腫に対して抗PD-1抗体が効果を示すか確認するための医師主導型治験を予定しています。

概要

血管肉腫は高齢者の頭部などに発症する悪性腫瘍の一つで、その治療には手術や抗がん剤、放射線などが行われてきました。しかしながら5年生存率は10%程度と難治で、予後の非常に悪い疾患であるため、新たな治療法の開発が望まれてきました。

これまでの研究によって、さまざまな悪性腫瘍において、がん細胞に対する免疫反応である「がん免疫」が病気の進展に関与していることがわかってきました。悪性黒色腫や肺癌などでは、その一つである「PD-1/PD-L1分子」が腫瘍の進展に関与していることが知られており、この分子の作用をブロックすることのできる、「抗PD-1抗体」(一般名ニボルマブ、商品名オプジーボ)が治療効果を示してきました。

しかしながら、皮膚血管肉腫については、この「PD-1/PD-L1分子」がどのように病気の進展に関与しているかはわかっていません。この関与が解明されれば、「抗PD-1抗体」が効果を示す可能性が示唆され、皮膚血管肉腫における新たな治療法として期待できます。

そこで本研究グループは、患者の腫瘍細胞がPD-L1分子を発現しているか、免疫細胞がPD-1分子を発現しているかを免疫組織化学染色という手法を用いて調べました。それらの分子と患者の予後との相関関係を分析したところ、多くの免疫細胞がPD-1を発現し、それに加えて腫瘍細胞がPD-L1を発現している患者は、そうでない患者に比べて予後が良いことがわかりました。また、腫瘍組織から採取し、培養してできた「血管肉腫細胞株」を用いた試験管内の実験から、血管肉腫の進展に「PD-1/PD-L1分子」が関連していることが示されました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1080/2162402X.2016.1253657

Yuki Honda, Atsushi Otsuka, Sachiko Ono, Yosuke Yamamoto, Judith A Seidel, Satoshi Morita, Masahiro Hirata, Tatsuki R. Kataoka, Tatsuya Takenouchi, Kazuyasu Fujii, Takuro Kanekura, Yuko Okubo, Kenzo Takahashi, Teruki Yanagi, Daichi Hoshina, Hiroo Hata, Riichiro Abe, Taku Fujimura, Takeru Funakoshi, Koji Yoshino, Mamiko Masuzawa, Yasuyuki Amoh, Ryota Tanaka, Yasuhiro Fujisawa, Tetsuya Honda & Kenji Kabashima. (2017). Infiltration of PD-1-positive cells in combination with tumor site PD-L1 expression is a positive prognostic factor in cutaneous angiosarcoma. OncoImmunology, 6(1), e1253657.

  • 朝日新聞(11月28日夕刊 7面)、京都新聞(11月10日)、産経新聞(11月10日 26面)に掲載されました。