斜面土層の発達と崩壊を「ししおどし」から考える -山地災害科学の最前線-

ターゲット
公開日

松四雄騎 防災研究所准教授、谷誠 農学研究科名誉教授らの研究グループは、土砂くずれ(表層崩壊)をその発生の前提となる長期の土層発達から考え、土層発達をシミュレーションするモデルを開発しました。その結果、土層が厚く成長するには森林の根が土をつなぎ止めるはたらき、浸み込んだ雨水の流れ方という二つの条件が必要であることを明らかにしました。

本研究成果は、日本地形学連合の機関誌「地形」の2016年10月25日発行号に掲載されました。

研究者からのコメント

土砂災害は、地球表層で起こる短い時間スケールでの大気や水の循環あるいは地震動の発生、そして、より長い時間スケールでの岩石の風化や地形の形成に伴って発生する複雑な現象です。そのメカニズムの解明や予測方法の開発を科学的に進めようとするとき、関連する自然地理学・森林科学・砂防学・応用地質学・土木工学など、分野ごとに種々のアプローチが存在します。各々の学問分野はいずれも、これまでの研究によって築かれた知識体系と有用な知見を蓄積しています。しかし現象を真に統合的に理解し、持てる全ての知識を援用して問題の解決に役立てようとするとき、分野間のスキマに存在していた、取り扱う現象の時空間スケールの差異、前提条件の不一致などがギャップとして露わになってきます。私たちは分野をまたぐ学際的な研究の推進によって、こう したギャップを埋めていけるものと考えています。ここにご報告するように、これまでのプロジェクトで一定の成果をあげることができましたが、まだ残された課題も多くあります。新しいものの見方、統合分野の開拓、地球表層現象の理解の深化と知識の普及にたゆまず努力していきたいと考えています。

概要

山地斜面の土層は大雨があるとくずれ、大きな災害をもたらし、そのメカニズムを理解することが対策に欠かせません。しかし、土層の崩壊するメカニズムの解明に焦点が当てられ、土層が崩壊後数百年かかって厚く発達してくるのはなぜなのかは、あまり注目されませんでした。

そこで本研究グループは、長期の土層移動過程、厚く発達する過程、安定がくずれて生じる崩壊過程についてのシミュレーションモデルを開発しました。

その結果、森林の根による補強と効率的な排水により、数百年間土層が安定して厚く発達できることが分かりました。注がれる水がいっぱいになると竹筒が転倒して排水される「ししおどし」の仕組みのように、土は斜面上に土層としてためられますが、いつかは崩壊して川に流されます。表層崩壊の発生は、土層の厚さが以前の崩壊の後、現在どのような発達段階にあるかに影響されるため、発達ヒストリーを考えた現場調査が今後重要になると考えられます。

図:雨水流出と表層崩壊

詳しい研究内容について