がん免疫療法の新薬オプジーボ新規作用メカニズムを発見

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大塚篤司 医学研究科助教、野々村優美 同博士課程学生、椛島健治 同教授らの研究チームは、がん免疫療法の新薬オプジーボ®の新規作用として、末梢血中に数%しか存在しない「9型ヘルパーT細胞(Th9細胞)」に作用して、悪性黒色腫(メラノーマ、いわゆる、ほくろのがん)の患者に効果を発揮することを発見しました。

本研究成果は、2016年10月24日に国際科学誌「Oncoimmunology」に掲載されました。

研究者からのコメント

大塚助教

本研究の発見より今後以下のような波及効果が期待できます。

(1)末梢血中Th9細胞をモニタリングし、オプジーボ®投与後早期に治療効果を判定するバイオマーカーとしての活用
(2)Th9細胞の機能を高めることで抗腫瘍効果を高める可能性

今後は、オプジーボ®投与後によりTh9細胞が増加する患者さん、しない患者さんのさらなる詳細な違いを解析し、オプジーボ®に効果のない患者さんの治療効果を高めることを目指します。

概要

ヒトの体の中には、自分にとって「異物」である菌やウイルスを自力で排除するシステム=免疫機構が存在し、健康な状態ではがん細胞も「異物」として取り除かれています。これを「がん免疫」と呼びます。進行したがん患者ではこの免疫細胞が働けなくなるスイッチが入ってしまい、がん免疫が弱っていることがわかっています。このスイッチ(PD-1という分子)を解除して患者のがん免疫を回復させることでがん細胞を破壊する新薬が「抗PD-1抗体」(一般名ニボルマブ、商品名オプジーボ®)です。

しかしながら、この新薬が効くのは患者全体の3割程度で、残りの7割になぜ効果がないのかはまだわかっていません。薬が効く仕組/効かない仕組を解明すれば、薬が効く患者を予め選別し患者の体の負担、経済的負担を軽減することができます。さらには、新たな治療法の開発へつながることが期待できます。

そこで本研究グループは、患者それぞれがもつ免疫の状態の違いが新薬の効果の違いと関連があるのではないかと仮説をたて、それぞれの種類の細胞、分子一つ一つについて、治療効果があった患者群となかった患者群で差がないかを調べました。

その結果、リンパ球の一種である「9型ヘルパーT細胞(Th9細胞)」が、治療効果があった患者でオプジーボ投与後、増加していることを発見しました。さらにTh9細胞を試験管内で作り出す実験を行い、抗PD-1抗体を加えると、ない場合と比べて、より効率よくTh9細胞を作り出せることを発見しました。また、悪性黒色腫のマウスモデルを用いた実験を行い、Th9細胞が作り出すインターロイキン9という分子がどのような作用をもつかを検討した結果、インターロイキン9の作用を無効にする試薬を投与したマウスでは、そうでないマウスに比べ、悪性黒色腫が早く進行しました。このことから、インターロイキン9には悪性黒色腫の進展を抑える作用があることがわかりました。

図:オプジーボ®反応患者におけるTh9細胞の増加

オプジーボ®で効果のあった患者の末梢血を解析したところTh9細胞の増加が末梢神経で見られた。Th9細胞が産生するIL-9はCD8陽性T細胞に作用し、抗腫瘍効果を増強する。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1080/2162402X.2016.1248327

Yumi Nonomura, Atsushi Otsuka, Chisa Nakashima, Judith A Seidel, Akihiko Kitoh, Teruki Dainichi, Saeko Nakajima, Yu Sawada, Shigeto Matsushita, Megumi Aoki, Tatsuya Takenouchi, Taku Fujimura, Naohito Hatta, Satoshi Koreeda, Satoshi Fukushima, Tetsuya Honda & Kenji Kabashima. (2016). Peripheral blood Th9 cells are a possible pharmacodynamic biomarker of nivolumab treatment efficacy in metastatic melanoma patients. Oncoimmunology.

  • 京都新聞(10月24日 20面)、産経新聞(10月24日 24面)、中日新聞(10月24日 26面)、日刊工業新聞(10月24日 15面)、日本経済新聞(10月24日 13面)および毎日新聞(10月26日 26面)に掲載されました。