研究成果

「光合成のターボエンジン」CO2濃縮機構が葉緑体を介して制御される仕組みを新たに発見


2016年10月28日


     福澤秀哉 生命科学研究科教授、王連勇 同教務補佐員、山野隆志 同助教らの研究グループは、基礎生物学研究所、岡山大学、東京農業大学との共同研究により、光合成改良の要となる「CO2濃縮機構」が、植物特異なカルシウム結合タンパク質によって葉緑体を介して制御されることを明らかにしました。光合成を調節する全く新しいメカニズムの解明につながる成果であるとともに、藻類が持つCO2濃縮機構を陸上植物に導入し、作物の生産性向上につながることが期待されます。

     本研究成果は、2016年10月17日に米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)のオンライン速報版で公開されました。

    研究者からのコメント

    左から、福澤教授、山野助教、王教務補佐員

     本研究によって、藻類のカルシウム結合タンパク質CASが重炭酸イオン輸送体の発現を調節することでCO2濃縮機構を制御していることが初めて明らかになりました。また、CASが光とCO2の濃度変化によって葉緑体の中で局在を変化させるといった新しい現象も発見しました。一方、陸上植物のCASタンパク質は気孔の閉鎖を調節することで、CO2の取り込みを制御しています。つまり、藻類のCO2濃縮と陸上植物のCO2ガス交換といった、光合成維持のためのCO2の獲得システムが、CASという共通の因子で制御され、植物の進化の過程で保存されていることが分かってきました。

    本研究成果のポイント

    • 藻類のCO2濃縮機構は、陸上植物の光合成をより効率よく改変するのに利用できるが、それを調節する仕組みの詳細は不明だった。
    • 葉緑体の機能は核に制御されることは知られていたが、葉緑体から核へのレトログレード(逆行)シグナルによって、CO2濃縮に重要な重炭酸イオン輸送体の発現が制御される。
    • CASが光とCO2に依存して葉緑体の中で局在を変化させる発見は、光合成を調節する全く新しいメカニズムの解明につながる。

    概要

     植物は太陽光のエネルギーを利用して水と二酸化炭素(CO2)から有機物と酸素を作る光合成を行い、地球上の全ての生命活動を根底から支えています。特に、光合成に必要なCO2を効率よく細胞内に取り込み固定することは、光合成を調節するうえで重要なステップのひとつです。藻類が生息する水中では、しばしば光合成に不利なCO2欠乏環境にさらされますが、このような環境においても光合成を維持するために、藻類はCO2を重炭酸イオン(HCO3)の形で積極的に取り込み、葉緑体の中に濃縮する仕組み(CO2濃縮機構)を持ちます。CO2濃縮機構を実際に駆動するのに必要な重炭酸イオン輸送体は本研究グループにより発見されましたが、それを制御する仕組みの詳細については分かっていませんでした。

     そこで本研究グループらは単細胞緑藻クラミドモナスを水中で光合成を行う生物のモデルとして研究材料に使い、生育に高濃度のCO2を必要とする変異株を選抜しました。重炭酸イオン輸送体の蓄積量が顕著に減少し、光合成の効率が低下した変異株を単離したところ、カルシウムイオン(Ca2+)を結合するタンパク質CASをコードする遺伝子が壊れていました。Ca2+は光合成の酸素発生複合体の構成因子であり、光合成の調節にも関わることは知られていましたが、Ca2+がCO2濃縮機構の制御にも関わることが初めて明らかになりました。また、CASは光とCO2の濃度変化に依存して葉緑体の中で局在を変化させる性質を持ち、葉緑体から核へのレトログレード(逆行)シグナルを介して、重炭酸イオン輸送体の発現を制御することが明らかになりました。

    図:CO2濃縮機構に重要な重炭酸イオン輸送体の制御モデル

    葉緑体に局在するカルシウム結合タンパク質CASは、青丸で示したカルシウムイオンとピレノイド内部で結合し、核における重炭酸イオン輸送体遺伝子(HLA3LCIA)の発現を制御するシグナルを伝達する。CCM1は核内で働くCO2濃縮の制御因子。CAH3は炭酸脱水酵素

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】
    http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1606519113

    【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230353

    Lianyong Wang, Takashi Yamano, Shunsuke Takane, Yuki Niikawa, Chihana Toyokawa, Shin-ichiro Ozawa, Ryutaro Tokutsu, Yuichiro Takahashi, Jun Minagawa, Yu Kanesaki, Hirofumi Yoshikawa and Hideya Fukuzawa.(2017) Chloroplast-mediated regulation of CO2-concentrating mechanism by Ca2+-binding protein CAS in the green alga Chlamydomonas reinhardtii. PNAS November 1, 2016. 113 (44) 12586-12591.


    「光合成のターボエンジン」CO2濃縮機構が葉緑体を介して制御される仕組みを新たに発見
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