葉緑体が光に集まる反応を制御する新たな因子の発見

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末次憲之 生命科学研究科特定助教、河内孝之同教授らの研究グループは九州大学と共同で、光受容体フォトトロピンにより制御され、光合成効率を上昇させる反応である葉緑体集合反応に働く陸上植物に共通する新規因子を発見しました。

本研究成果は2016年8月30日に米国科学アカデミー紀要「PNAS」にて発表されました。

研究者からのコメント

フォトトロピンは光合成を促進するさまざまな生理反応を制御しているので、本研究で明らかになったフォトトロピン下流のシグナリングの特異性を決定する分子メカニズムは、光合成をより効率よく行うことのできる植物の開発に応用可能であると期待されます。今後、シロイヌナズナとゼニゴケの両方をモデルとして両者の利点を利用し、フォトトロピンシグナリングの陸上植物に普遍的なメカニズムを明らかにしたいと考えています。

概要

植物は太陽光のエネルギーを用いて水と二酸化炭素から有機物と酸素をつくる光合成反応を行います。植物は光合成のために光を多く吸収できるよう茎を曲げ(光屈性)、葉を広げ(葉の展開)、二酸化炭素の吸収を促すよう葉の表面にある気孔を開きますが(気孔開口)、細胞内では光合成を担う葉緑体自身が光を効率よく利用できる位置に移動します。これを葉緑体光定位運動と呼び、当たる光が弱い場合には葉緑体は光に向かって集まり(集合反応)、強い光からはダメージを避けるよう逃げます(逃避反応)。

これらの生理反応は全て植物特有な光受容体であるフォトトロピンによって制御されていますが、どのようにフォトトロピンが全く性質の異なるこれらの反応を制御しているかは不明のままでした。また、過去のシロイヌナズナの解析から、これまでに光屈性、葉の展開や気孔開口に関与するフォトトロピンの結合タンパク質は同定されていましたが、葉緑体光定位運動の制御に関わるタンパク質は発見されていませんでした。

そこで、本研究グループは光屈性と葉の展開を制御するフォトトロピン結合タンパク質NPH3とRPT2のホモログ(進化的に同じ祖先に由来する類似性の高い遺伝子の一群)の中からNCH1 というタンパク質がフォトトロピンと結合することを発見しました。また、シロイヌナズナ変異体の解析により、NCH1はRPT2 とともに葉緑体集合反応を制御することもわかりました。NCH1は光屈性と葉の展開に関与せず、さらにNPH3、RPT2とNCH1いずれもが葉緑体逃避反応と気孔開口には関与しないことを発見しました。

これらの結果から、フォトトロピンにより制御される反応にはNCH1 とそのホモログに依存した反応(光屈性、葉の展開と葉緑体集合反応)と非依存な反応(葉緑体逃避反応と気孔開口)に分類され、NCH1ホモログの使い分けによって光屈性・葉の展開(NPH3とRPT2)と葉緑体集合反応(NCH1とRPT2)が制御されていることを明らかにしました。加えて、コケ植物タイ類ゼニゴケからRPT2/NCH1 のホモログMpNCH1 を同定し、ゼニゴケでもNCH1が集合反応特異的な因子であることを発見し、NCH1 によるフォトトロピン依存の葉緑体集合反応の制御が陸上植物に共通して保存されていることを明らかにしました。

図:青色光受容体フォトトロピンとその結合タンパク質NCH1 とRPT2 は葉緑体の集合反応を制御する。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1602151113

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/216419

Noriyuki Suetsugu, Atsushi Takemiya, Sam-Geun Kong, Takeshi Higa, Aino Komatsu, Ken-ichiro Shimazaki, Takayuki Kohchi and Masamitsu Wada. (2016). RPT2/NCH1 subfamily of NPH3-like proteins is essential for the chloroplast accumulation response in land plants. PNAS.