家族性骨形成不全症の病態メカニズムの解明-小胞体TRIC-Bチャネル欠損により骨形成不全に至る機構-

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市村敦彦 薬学研究科特定助教、趙成珠 同特定研究員らの研究グループは、小胞体カウンターイオンチャネルTRICチャネル欠損が骨形成不全を引き起こす病態生理学的機構を解析し、その一端を解明しました。

また、本研究成果は、米国の科学雑誌「Science Signaling」に5月17日付けでオンライン出版されました。

研究者からのコメント

左から市村特定助教、趙特定研究員

TRIC-Bという小胞体タンパク質の機能不全が骨形成不全症を引き起こすメカニズムの一端がわかりました。この研究から、TRIC-Bに変異を持って い る先天的な家族性骨形成不全症だけでなく、加齢等に伴う後天的なTRIC-Bの機能不全により骨粗しょう症などの骨形成不全に至っている可能性も考えられ ます。骨粗しょう症治療における骨密度増強の目的で、ビタミン薬、ホルモン薬や破骨細胞抑制薬などが現在用いられています。TRIC-B欠損マウスへの多 種の薬剤投与を試み、本病態を効果的に改善する薬物治療を検討していきます。また、大きな異常はないと考えられる破骨細胞や軟骨細胞についてもTRIC- B欠損による変化が起きていないか細かい解析を行うことにより、骨形成全体におけるTRIC-Bの生理機能の全容解明を目指しています。

概要

骨形成不全症は、骨量の減少や骨の質的変化による脆弱化により、骨折や骨変形をはじめとした様々な病状を示す先天性疾患です。骨形成不全症の原因の多くは、骨を構成している  I  型コラーゲンの構造的な変化及び翻訳後修飾の変化によって惹起される、合成/分泌不全、フォールディング/輸送異常、およびび骨基質への取り込み障害といった、  I  型コラーゲン遺伝子に関連した変異に起因しています。

その一方で、  I  型コラーゲンと関連しない骨形成不全症の原因遺伝子も複数発見されています。その中に、2007年本研究グループが発見し、機能を同定した小胞体カウンターイオンチャネル TRIC-Bが含まれていましたが、その病態形成のメカニズムや、骨形成におけるTRIC-Bの生理機能は不明でした。

本研究では、TRIC-Bチャネルが骨形成不全を引き起こす病態生理学的解析を行い、骨芽細胞においてTRIC-B欠損がカルシウムシグナル異常を引き起こし、コラーゲンの細胞内異常蓄積と細胞外への分泌不全から骨形成不全へとつながることを明らかとしました。

本成果は、TRIC-B遺伝子変異による骨形成不全症の診断や治療に貢献することが期待されます。

図:野生型並びにTRIC-B欠損マウスにおける骨形成概略図。

TRIC-B欠損マウスの骨芽細胞において、カルシウムハンドリング異常に起因する小胞体カルシウムの過剰蓄積が生じ、小胞体におけるコラーゲン異常蓄積と分泌不全が起こった結果、細胞外基質の構築が障害され、結果的に骨形成不全症様の表現形に至るものと考えられる。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1126/scisignal.aad9055

Chengzhu Zhao, Atsuhiko Ichimura, Nianchao Qian, Tsunaki Iida, Daiju Yamazaki, Naruto Noma, Masataka Asagiri, Koji Yamamoto, Shinji Komazaki, Chikara Sato, Fumiyo Aoyama, Akira Sawaguchi, Sho Kakizawa, Miyuki Nishi, Hiroshi Takeshima. (2016). Mice lacking the intracellular cation channel TRIC-B have compromised collagen production and impaired bone mineralization. Science Signaling, Vol 9, Issue 428, pp. ra49.