緑内障の進行を抑制、マウスで成功-新規の化合物を用いた難治性眼疾患の進行抑制に期待-

ターゲット
公開日

池田華子 医学研究科准教授、吉村長久 同特命教授、垣塚彰 生命科学研究科教授、ダイトーケミックス株式会社らの研究グループは、神経保護効果をもつ化合物KUS剤が、緑内障の進行を抑制することを、3種類のモデルマウスを用いて明らかにしました。

本成果は2016年4月19日に英国open access科学誌「HELIYON」へ掲載されました。

研究者からのコメント

左から垣塚教授、池田准教授

本研究により、KUS剤にヒトの緑内障の進行を遅延させる可能性があることが分かりました。今後は国際的な基準に基づいた長期にわたる安全性試験が必要になりますので、実際に患者さんに投与できるまでに5年はかかると思います。また、治療法の存在しない急性の眼疾患に対して、KUS剤を眼内に注射し、安全性や神経保護効果を検討する医師主導治験を年内に開始できるように準備を進めています。

概要

緑内障は、日本において視覚障害原因の第1位の原因疾患であり、40歳以上の日本人の5%に緑内障の兆候があり、はっきりとした症状がある患者数は日本では300~400万人と推定されています。この病気では、網膜の神経節細胞(光信号を頭に伝える働きをする細胞)と神経線維(網膜の情報を頭に送る神経の線維)が変性・脱落することにより、視野障害・視力障害が徐々に進行します。現状では、薬剤や手術治療によって、眼圧(目の中の圧力)を下げることが唯一の治療法ですが、眼圧を十分に下げるのが難しい例や、眼圧を十分に下げてもなお視野障害が進行する場合が少なくありません。

本研究では、網膜神経節細胞・神経線維の変性・死滅を予防・抑制することにより緑内障の進行を食い止めるというこれまでに無い視点から研究を行いました。具体的には、本研究グループが近年開発した、KUS剤(体中の細胞に大量に存在し、細胞内のエネルギー源ATPを消費する蛋白質(ATPase)の一つであるVCPのATP消費を抑制する低分子化合物)に緑内障の進行抑制効果があることを、三つの異なる緑内障モデルマウスで確認しました。

本研究によって、現在眼圧を下げることが唯一の治療法である緑内障に対して、神経保護という新たな観点からの治療薬の開発に繋がることが期待できます。さらに、網膜神経の細胞死によって引き起こされる他の眼疾患や神経変性疾患など、他の疾患への応用も期待できます。

図:KUS剤の神経線維保護効果 (モデルマウスの1例)

GLAST遺伝子のノックアウトマウスに2か月齢からKUS剤(KUS121を50mg/kg)を毎日投与した。12か月齢で作成した網膜の標本ではKUS剤を投与していないマウスの網膜神経節細胞(各小点)がまばらになり神経線維が少なくなっている。(左)一方で、KUS剤投与マウスにおいては、神経線維・神経節細胞の減少が抑制されている。(右)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.heliyon.2016.e00096

【KURENAI】
http://hdl.handle.net/2433/210500

Noriko Nakano, Hanako Ohashi Ikeda, Tomoko Hasegawa, Yuki Muraoka, Sachiko Iwai, Tatsuaki Tsuruyama, Masaki Nakano, Tomohiro Fuchigami, Toshiyuki Shudo, Akira Kakizuka, Nagahisa Yoshimura "Neuroprotective effects of VCP modulators in mouse models of glaucoma" Heliyon 2, e00096, Published online 19 April 2016

  • 朝日新聞(4月20日 37面)、京都新聞(4月20日 31面)、日刊工業新聞(4月20日 28面)、日本経済新聞(4月20日夕刊 14面)、毎日新聞(4月20日 31面)に掲載されました。