研究成果

新しい糖脂質蛍光プローブを開発して細胞膜の「筏ナノドメイン」を解明-ウィルスや毒素の細胞内侵入機構の解明に新しい光-


2016年04月18日


     楠見明弘 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授(沖縄科学技術大学院大学教授)、木曽真 同教授(岐阜大学応用生物科学部教授)、鈴木健一 同准教授、安藤弘宗 同准教授(岐阜大学応用生物科学部准教授)、河村奈緒子 同研究支援員らの研究グループは、細胞膜の構成成分で、細胞膜の重要な働きを担う特殊な糖脂質、ガングリオシドの細胞膜上での動きや分布の可視化に世界で初めて成功し、ガングリオシドがウィルス・毒素などの細胞内侵入に大きく関わる細胞膜の分子集合体である「筏(いかだ)ナノドメイン」の形成に関与することを見出しました。

     一方、病因物質が細胞内に侵入するときには、細胞膜の筏ナノドメインを上手に乗っ取って侵入することが示唆されています。本研究で開発された方法と得られた結果は、侵入機構の解明のための大きな一歩であるばかりでなく、侵入を阻止する薬剤開発にも寄与するものと考えられます。

     本成果はロンドン時間2016年4月4日16時(日本時間5日午前0時)の週に米科学誌「Nature Chemical Biology」オンライン速報版で公開されました。

    研究者からのコメント

    左から楠見教授、木曽教授、鈴木准教授、安藤准教授、河村研究支援員

     本研究によって、生きている細胞膜上でのガングリオシドの動態と機能がはじめて分かってきました。これは、異分野融合を目指すiCeMSにおいて、糖鎖合成化学と1分子イメジングという全く違う分野の2チームが協力して可能となったものです。iCeMSの設立申請時に研究計画を考えはじめ、9年の歳月をかけて行った研究が結実し、喜びもひとしおです。

    概要

     ガングリオシドはさまざまな膜受容体の活性制御を行うことが知られていますが、その機構は未だよく分かっていませんでした。

     ガングリオシドは天然のままでは見えません。そこで、本研究では蛍光を発する小分子をガングリオシドに結合させて、その蛍光をマーカー(プローブ=探針、と呼びます)として追跡しました。今までの方法では、ガングリオシドの特定の部分に1個だけプローブをつけるのは困難なうえに、プローブ結合によってガングリオシドの機能を損なっていました。今回、研究グループは、蛍光分子とガングリオシドの複合体の全化学的合成に成功し、さらに17種の中から機能を損なわないものを選ぶことで、これらの問題をクリアしたのです。さらに、生細胞の細胞膜中で、蛍光ガングリオシドを1分子イメジングにより可視化し、1分子追跡することで、ガングリオシドの動的な動きを手に取るように見ることができました。

     その結果、ガングリオシドがGPIアンカー型受容体とよばれる種類の受容体と細胞膜上で結合したり離れたりする様子を可視化することにも成功し、さらに、この結合には、コレステロールが必要なことを見い出しました。すなわち、これら3種の分子が、会合体を作ることを世界で初めて証明しました。
    この発見の画期的なところは、以下の3点です。

    1. これら3種の分子は細胞膜内で集合して「筏ドメイン」と名付けられるナノドメインを作る可能性がこの25年間疑われてきました。筏ナノドメインは受容体の機能発現やウィルス・毒素などの細胞内侵入に重要という強い意見もあり、生細胞内で本当に存在するかどうかは大きな課題でした。本研究で初めて、これら3種分子を含むナノドメインの存在が証明されました。 ガングリオシドが筏ナノドメインに出入りする様子を1分子ずつ見たり、筏ナノドメインが動く様子を解析することにも成功しました。
    2. 1.の結果、ガングリオシドは筏ナノドメインを作るという重要な働きがあることが分かりました。
    3. ガングリオシドは10~50ミリ秒(1秒の1/100~1/20)の時間スケールで筏に入っては出ていくという、きわめて動的な制御がなされていることが分かりました。これによって、なぜいままで、筏ナノドメインが生きている細胞内で見つからなかったかも分かりました。ナノサイズという小ささに加えて、分子がきわめて動的に出入りするので、普通の方法では見えなかったのです。
       

     今回、本研究グループが開発したガングリオシド蛍光プローブによって、さまざまな膜受容体の活性制御機構が明らかになると期待されます。

     

     

    宿主細胞を囲んで襲っているHIV/エイズ・ウイルスのイメージ図(Credit:William Roberts / 123rf)

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    【DOI】 http://dx.doi.org/10.1038/nchembio.2059

    Naoko Komura, Kenichi G N Suzuki, Hiromune Ando, Miku Konishi, Machi Koikeda, Akihiro Imamura, Rahul Chadda, Takahiro K Fujiwara, Hisae Tsuboi, Ren Sheng, Wonhwa Cho, Koichi Furukawa, Keiko Furukawa, Yoshio Yamauchi, Hideharu Ishida, Akihiro Kusumi & Makoto Kiso
    "Raft-based interactions of gangliosides with a GPI-anchored receptor"
    Nature Chemical Biology, Published online 04 April 2016
     

    • 京都新聞(4月5日 25面)に掲載されました。
       

    新しい糖脂質蛍光プローブを開発して細胞膜の「筏ナノドメイン」を解明-ウィルスや毒素の細胞内侵入機構の解明に新しい光-
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