研究成果

常温・常圧でのイオン性ナノ結晶の結晶構造制御に成功 -新しい光エネルギー変換材料開発に期待-


2016年03月18日


     呉欣倫 化学研究所研究員、佐藤良太 同助教、山口睦 理学研究科博士後期課程学生、木村仁士 同修士課程学生、治田充貴 化学研究所助教、倉田博基 同教授、寺西利治 同教授の研究グループは、常温・常圧でのイオン性ナノ結晶の陰イオン交換反応において、表面に露出している結晶面の陰イオン骨格(対称性や積層様式)が、生成物の結晶構造を決定することを発見しました。

     本研究成果は日本時間3月18日に米国科学誌「サイエンス」誌(電子版)に掲載されました。

    研究者からのコメント

    左から寺西教授、佐藤助教

     今回の研究では、露出結晶面の異なる二種類の立方晶Cu2Oナノ結晶の陰イオン交換反応とそれに続く陽イオン交換反応により、結晶系の異なるCuxS、CdS、ZnSナノケージの合成に成功しました。イオン性ナノ結晶の種類は極めて多いため、今回開発した構造変換手法を種々のイオン性ナノ結晶に適用することで一般性を実証するとともに、従来では得られない結晶構造をもつイオン性ナノ結晶やイオン結晶薄膜を作製することで、全く新しい物性・機能を見出せるのではないかと考えています。特に、光エネルギー変換材料分野における新しい光触媒や光電変換材料の開発に期待を寄せています。

    概要

     イオン性ナノ結晶は、半導体光触媒や光電変換材料などの光機能性材料として広く使われており、その多彩な特性は、構成元素・形態・結晶構造などにより決まります。なかでも、イオン性ナノ結晶の結晶構造は、温度によりどの構造が安定に存在できるかが決まっているため、高温で安定な結晶構造を化学合成で得ることは困難でした。

     今回、研究グループでは、表面に露出している結晶面の異なる二種類の多面体Cu2Oナノ結晶のイオン交換反応を行い、形状を維持した生成物の結晶構造を詳細に調べました。その結果、Cu2Oナノ結晶を常温・常圧で陰イオン交換(O2- → S2-)すると、表面に露出している結晶面の陰イオン骨格(対称性と積層様式)により、生成物の結晶系が決定されることを見出しました。すなわち、表面露出結晶面を変えるだけで、立方晶(陰イオン:体心立方格子)を立方晶(陰イオン:面心立方格子)あるいは三斜晶(陰イオン:六方最密格子様)・六方晶(陰イオン:六方最密格子)に変換することができるようになりました。また、得られた生成物は非常に珍しい中空状のナノ結晶(ナノケージ)であり、各結晶面の結晶軸方向が一致していない多重双晶体であることが分かりました。本手法を用いると、六方晶ZnSなどの高温でしか得られない結晶構造でも、常温・常圧で形成可能であることを実証しました。

    (上段){100}面が露出した正六面体Cu2Oナノ結晶(立方晶)の陰イオン交換(O2- → S2-)およびCu2Oのエッチングにより中空状正六面体Cu1.8Sナノケージ(立方晶)が得られ、引き続き陽イオン交換(Cu+ → Cd2+, Zn2+)を行うと正六面体CdSやZnSナノケージ(いずれも立方晶)が得られる。(下段){110}面が露出した菱形十二面体Cu2Oナノ結晶(立方晶)の陰イオン交換(O2- → S2-)およびCu2Oの溶解により菱形十二面体Cu1.75Sナノケージ(三斜晶)が得られ、引き続き陽イオン交換(Cu+ → Cd2+, Zn2+)を行うと菱形十二面体CdSやZnSナノケージ(いずれも六方晶)が得られる。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.aad5520

    [KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/210291

    Hsin-Lun Wu, Ryota Sato, Atsushi Yamaguchi, Masato Kimura, Mitsutaka Haruta, Hiroki Kurata, Toshiharu Teranishi
    "Formation of pseudomorphic nanocages from Cu2O nanocrystals through anion exchange reactions"
    Science Vol. 351, Issue 6279, pp. 1306-1310, 18 Mar 2016

     

    • 日本経済新聞(3月21日 15面)に掲載されました。

    常温・常圧でのイオン性ナノ結晶の結晶構造制御に成功 -新しい光エネルギー変換材料開発に期待-
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