酵母の熱適応進化の大規模ゲノム解析によって熱耐性因子の同定に成功 -バイオエタノール生産性の飛躍的な向上に貢献-

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里村淳 農学研究科博士課程学生、三浦夏子 同教務補佐員(現アメリカ国立衛生研究所博士研究員)、黒田浩一 同准教授、植田充美 同教授の研究グループは、熱ストレス下で適応進化を行い育種してきた酵母 Saccharomyces cerevisiae 群の全ゲノムを次世代シーケンサーにより解析することで、熱耐性を誘導する遺伝子変異を分子レベルで世界で初めて明らかにし、再現実験にも成功しました。

本研究成果は2016年3月17日にScientific Reports誌に掲載されました。

研究者からのコメント

適応進化育種とその次世代シーケンサーによる解析から得たビッグデータの解析により、世界で初めて、真核生物で、熱耐性因子の同定に成功しました。さらに、その遺伝子を用いて再現実験にも成功しました。この成功は、バイオマスからエタノールに限らずさまざまな有用物質生産への応用が期待でき、バイオテクノロジーの進展に貢献が期待できます。

概要

本研究では、酵母 S. cerevisiae を32度、72時間で繰り返し育種する適応進化を行いました。親株30度の生育よりも、32度においてより良い生育を示した時点で、さらに2度上昇させて34度で培養しました。同様の操作を繰り返して、最終的に38度まで適応育種を行いました。また、その過程で、各温度に適応した育種途中株を取得しました。育種途中株をすべて解析することで、変異を獲得していく経緯や特定の変異を持つ集団による他集団の淘汰などを遡って解析することが可能になります。

同定した変異を導入した再構成株は高温下において良好な生育を示し、さらに、野生株と比較してグルコースから2.5倍、ガラクトースから5.1倍のエタノールを生産しました。これらの変異は CDC25 遺伝子という、さまざまなストレス耐性を誘導する経路の上流に位置する因子において同定されました。再構成した株は、真核生物ではこれまで制御が困難であった種々のストレス応答性遺伝子を協調的に発現誘導することで、熱耐性を実現していることがわかりました。この熱耐性株を用いた有用物質生産では、発酵系の冷却エネルギーの削減、発酵速度の向上などが見込まれます。本研究で同定された熱耐性関連変異は低コストなバイオエタノール生産など、酵母の産業利用への広汎な応用が期待されます。

包括的制御因子の発見による真核細胞での熱耐性の解明

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep23157

[KURENAI] http://hdl.handle.net/2433/212048

Atsushi Satomura, Natsuko Miura, Kouichi Kuroda & Mitsuyoshi Ueda
"Reconstruction of thermotolerant yeast by one-point mutation identified through whole-genome analyses of adaptively-evolved strains"
Scientific Reports 6, Article number: 23157 Published: 17 March 2016