役割によって異なるシロアリの化学受容体の発現 -高度な分業体制を支えるコミュニケーション機構解明へ期待-

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松浦健二 農学研究科教授、三高雄希 同博士後期課程学生、小林和也 同研究員(日本学術振興会特別研究員PD)、アレキサンダー・ミケェエヴ 沖縄科学技術大学院大学准教授、マンディ・ティン 同技術員、渡邉豊 同技術員らの研究グループは、シロアリの化学受容体遺伝子の発現量がカースト(社会の中の役割)および性によって異なっており、特に王と女王では、年齢とともに変化していることを明らかにしました。今回の研究成果は、社会性昆虫における化学コミュニケーションを基盤とした労働分業の進化を理解する上で、極めて重要な意味を持ちます。

本研究成果は、2016年1月13日午後2時(米国東部時間)に、米国科学誌「PLOS ONE」にて掲載されました。

研究者からのコメント

シロアリなどの社会性昆虫は、繁殖や採餌、子の世話や巣の防衛などを高度な分業体制によって効率的に行っています。本研究により、社会の中で担っている役割(カースト)によって化学受容体遺伝子の発現パターンが異なることが明らかになり、また各カーストの雌雄や年齢によっても差があることが分かりました。社会性昆虫の高度な役割分業と化学コミュニケーションの背景にある分子基盤が解き明かされつつあります。

概要

昆虫の化学受容体は触角だけではなく、口元にも存在し、種によっては脚の先にも存在します(嗅覚に関わる受容体は主に触角にありますが、味覚に関わる受容体はさまざまな部位にあることが知られています)。そこで本研究グループはRNA-seqという技術を用いて、ヤマトシロアリで発現する全ての遺伝子を全身から抽出・解読し、その中から「化学受容体」と「受容体まで化学物質を輸送するタンパク」の遺伝子の候補を探索しました。そして各カースト・性において、それぞれの遺伝子がどれくらい発現しているのかを解析しました。

その結果53種類の遺伝子が見つかり、そのうち41種類が化学受容体(嗅覚受容体22種類、味覚受容体7種類、イオノトロピック型受容体12種類)であり、12種類が輸送タンパク(匂い分子結合タンパク9種類、化学感覚タンパク3種類)であることがわかりました。これら53種類の遺伝子のうち、約81%は発現量にカースト間差が見られ、約8%は性差が見られました。また、いくつかの遺伝子は、王または女王でのみ顕著に発現するパターンを示しました。さらに、全体の約62%の遺伝子は、王または女王の年齢に応じて発現量が変化していることが示唆されました。

各カースト・性における化学受容体遺伝子の発現比較。行は遺伝子名、列はカーストを示す。各遺伝子について、白色に近いカーストほど他のカーストより発現量が相対的に高いことを示す(上段:嗅覚受容体、中段:味覚受容体、下段:イオノトロピック型受容体)。例えば、RsOr18からRsOr2は二次女王で顕著に発現している。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0146125

[KURENAI] http://hdl.handle.net/2433/212047

Yuki Mitaka, Kazuya Kobayashi, Alexander Mikheyev, Mandy M. Y. Tin, Yutaka Watanabe, Kenji Matsuura
"Caste-Specific and Sex-Specific Expression of Chemoreceptor Genes in a Termite"
PLOS ONE 11(1): e0146125 Published: January 13, 2016