研究成果

50テスラ超強磁場まで維持される2次元超伝導状態を発見 -相対論的効果により出現する新奇超伝導現象の解明-


2015年12月09日


     柳瀬陽一 理学研究科准教授と笠原裕一 同准教授は、岩佐義宏 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター教授らと共同で、原子膜材料である二流化モリブデン(MoS2)の電気二重層トランジスタ(EDLT)構造において、MoS2表面に誘起される原子1層分の厚さの極めて薄い2次元超伝導体が、層に平行な方向の磁場に対して極めて強い耐久性を示すことを発見しました。さらに、第一原理に基づく理論計算により、この超伝導体では超伝導電子対のスピンが層に対し垂直方向に固定されている、前例にない特殊な超伝導状態が実現していることを初めて実証しました。

     本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Physics」のオンライン(2015年12月7日版)に掲載されました。

    研究者からのコメント

     本研究により、反転対称性が破れた原子層1層分の厚さの2次元超伝導体では、面に平行な外部磁場に対して極めて耐久性の高い特殊超伝導が実現されることが分かりました。今後、この原子層超伝導の特異な超伝導特性や電子対形成機構が明らかになることが見込まれます。本研究成果は、対称性が破れた2次元超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく、強磁場に対して極めて安定的な超伝導材料を開発する指針となることが期待されます。

    概要

     医療現場で利用されている磁気共鳴イメージング装置(MRI)や、交通・輸送分野で活躍が期待されるリニアモーターカーなどは強磁場下で超伝導を利用しているため、この磁場の上限を向上させた強磁場下で安定な超伝導体をデザインし作製することは、学術的に中心的な課題の一つであり、かつ材料開発において世界的に急務となっています。この候補物質として原子層レベルまで薄くした2次元超伝導体が挙げられ、実際さまざまな形態の2次元超伝導の研究が世界中で盛んに行われています。

     このたび、本研究グループは、原子膜材料の一種である層状物質・二硫化モリブデン(MoS2)の高品質な単結晶を用いて、電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造を作製しました。測定の結果、極低温領域の1.5ケルビン(マイナス271.7度)において、原子層に平行方向の臨界磁場(超伝導が維持できる磁場の最大値)は52テスラまで上昇することを発見しました。

     また、この超伝導体では、超伝導電子対のスピンが、面直方向に強く固定されていることを突き止め、これが原因となって外部磁場に対して極めて強いことを明らかにしました。これは世界的にも前例にない特殊な超伝導状態がMoS2薄膜で実現していることを示しています。


    MoS2-EDLTにおける面内磁場下における臨界磁場の温度依存性(左)と今回明らかにされた非従来型の超伝導電子対形成(右)

    (左)最低温での臨界磁場は50テスラを超え、従来の理論での限界値の4倍の大きさになっている。(右)超伝導電子対は、面内の対称性の破れに起因する約200テスラの内部磁場によって、層に垂直な方向に固定されているため、層に平行な方向の外部磁場を加えてもその超伝導状態が維持される。下の図は、波数空間での超伝導対形成の様子

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nphys3580

    Yu Saito, Yasuharu Nakamura, Mohammad Saeed Bahramy, Yoshimitsu Kohama, Jianting Ye, Yuichi Kasahara, Yuji Nakagawa, Masaru Onga, Masashi Tokunaga, Tsutomu Nojima, Youichi Yanase and Yoshihiro Iwasa
    "Superconductivity protected by spin–valley locking in ion-gated MoS2"
    Nature Physics, Published online 07 December 2015


    50テスラ超強磁場まで維持される2次元超伝導状態を発見 -相対論的効果により出現する新奇超伝導現象の解明-
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