難治性の白血病が発症するメカニズムの解明に成功 -新たな創薬に期待-

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奥田博史 医学研究科特定助教、横山明彦 同特定准教授らの研究グループはMLLキメラタンパク質がSL1と呼ばれるタンパク質複合体を利用して白血病発症へと導いていることを見出しました。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」誌の電子版で公開されました。

研究者からのコメント

左から奥田特定助教、横山特定准教授

白血病の治療は近年の抗がん剤治療の発展で治療できるケースが非常に多くなってきましたが、MLLキメラ遺伝子が原因の白血病は治療が難しく、強い抗がん剤を用いた治療や骨髄移植をおこなっても多くの場合再発してしまいます。今回、我々が明らかにしたMLLキメラによる白血病化のメカニズムを基盤にして、将来新たな白血病治療薬の開発が可能となるかもしれません。

概要

染色体転座という遺伝子異常によってMLL遺伝子が異なる遺伝子と融合するとMLLキメラと呼ばれる異常タンパク質が生じ、このタンパク質が働くと難治性の白血病を引き起こします。このタイプの白血病は乳児の急性リンパ性白血病の80%を占め、強い抗がん剤を用いた治療や骨髄移植をおこなっても再発しやすいものです。

そこで本研究グループは、独自に開発したタンパク質精製技術を用いて、このAF4中の白血病発症に重要な役割を果たしている部位に結合するタンパク質を探索しました。その結果、SL1と呼ばれるタンパク質複合体がAF4と結合することを発見しました。これらの解析から、MLLキメラはSL1を利用してさまざまな遺伝子の発現を活性化し、細胞を白血病化させることが明らかとなりました。

正常MLLと異常MLL

赤血球・白血球の基である前駆細胞において、MLLは前駆細胞に必要な遺伝子の発現を調節している。細胞分化によって成熟した白血球では、MLLの働きは消失する。放射線や化学物質などさまざまな要因によって、染色体が傷つけられごく稀に染色体転座を持った異常細胞が生まれる。染色体転座が起こった場所がMLL遺伝子であった場合、異常MLL(MLLキメラ)が生じる。MLLキメラは正常MLLより機能が高いため、前駆細胞に必要な遺伝子の発現を高めてしまう。その結果、前駆細胞が異常に増殖し、機能細胞である白血球への細胞分化が行われなくなる。MLLキメラはSL1を介して遺伝子の発現を活性化する。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9869
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201896

Hiroshi Okuda, Akinori Kanai, Shinji Ito, Hirotaka Matsui & Akihiko Yokoyama
"AF4 uses the SL1 components of RNAP1 machinery to initiate MLL fusion- and AEP-dependent transcription"
Nature Communications 6, Article number: 8869, Published 23 November 2015

  • 京都新聞(11月25日 29面)、産経新聞(11月24日 26面)および日刊工業新聞(12月4日 21面)に掲載されました。