研究成果

シビアな構造異常糖タンパク質が出現すると手順を踏まずに強制分解 -酵母にはない高等動物特有の小胞体糖タンパク質分解システムの解明-


2015年11月20日


     蜷川暁 理学研究科研究員(元岡崎統合バイオサイエンスセンター)、岡田徹也 同助教、森和俊 同教授らの研究グループは、細胞にとって有害であるシビアな構造異常糖タンパク質は糖鎖依存分解経路だけでなく糖鎖非依存分解経路でも分解されるという、酵母にはない高等動物特異的な分解システムを発見しました。

     本研究成果は、米国科学雑誌「The Journal of Cell Biology」誌の2015年11月16日付けに掲載されました。

    研究者からのコメント

     構造異常タンパク質は細胞にとって有害ですので、修復されないと細胞はこれを分解します。

     これまで、糖鎖が共有結合したタンパク質が分解される際には糖鎖が刈り込まれ、分解シグナルがむき出しになって分解処分されると考えられてきました。昨年、この刈り込み酵素の実体を解明しました。今回、この刈り込み酵素を全て欠損する細胞を作製して解析した結果、シビアに構造異常となった糖タンパク質の場合、糖鎖の刈り込みという手順を踏まなくても強制的に分解されることを見いだしました。タンパク質品質管理機構の奥深さが改めて浮き彫りになりました。

    本研究成果のポイント

    • ネイティブだが不安定な糖タンパク質は糖鎖依存分解経路のみで分解される
    • シビアな構造異常糖タンパク質は糖鎖依存分解経路、非依存分解経路の両方で分解される

    概要

     全タンパク質の約1/3が生合成される小胞体では、タンパク質の厳密な品質管理が行われており、不要なタンパク質や構造をとっていない異常タンパク質は分解処分されます。小胞体におけるタンパク質の分解は、糖鎖を持つタンパク質(糖タンパク質)を処分する糖鎖依存分解経路と、糖鎖を持たないタンパク質を処分する糖鎖非依存分解経路の二つに大別されると考えられてきました。糖鎖依存分解経路では、分解の目印として、糖鎖に含まれる9個のマンノースが7個以下へと段階的に刈り込みされます。本研究グループは2014年、このマンノース刈り込みがマンノシダーゼEDEM2によって開始され、EDEM3/1によって完了されることを明らかにしました (Ninagawa et al., JCB, 2014)。

     そこで本研究は、糖鎖依存分解経路の糖タンパク質分解への影響を精査することを目的としました。最新ゲノム編集技術であるTALEN(Transcriptional activator-like effector nuclease)法を駆使してEDEM1/2/3の遺伝子破壊を行い、糖鎖依存分解経路が全く機能しないEDEMトリプルノックアウト細胞(EDEM TKO細胞)を作製しました。EDEM TKO細胞では、ネイティブな一次構造を持つが不安定な糖タンパク質ATF6α、ATF6α(C)、CD3-δ-ΔTMまたはEMC1の分解が、予想通り顕著に抑制されました。一方、驚いたことに、α1-アンチトリプシンの変異体であるモデル構造異常糖タンパク質NHKについては、初期の分解遅延が観察されましたが、最終的には野生型細胞の場合と同様に分解されました。この予想外の結果を受けて、本研究グループは、NHKとNHK以外の分解基質の挙動の違いは何に由来するのかという謎に迫ることにしました。NHKはC末端に大きな欠損領域が存在し、大きく構造が崩れていると考えられることから、「シビアな構造異常部位を有する糖タンパク質は糖鎖依存分解経路に加えて糖鎖非依存分解経路でも分解される」という仮説を立てました。

     この仮説を検証するために、ATF6α(C)、CD3-δ-ΔTMまたはEMC1に対してアミノ酸の挿入、欠失による構造異常部位を導入し、EDEM TKO細胞においてそれらの分解速度を調べました。するとNHKと同様に、初期には分解遅延が見られましたが、最終的には分解されるようになりました。これらのことからシビアな構造異常部位を有する糖タンパク質は、糖鎖依存分解経路だけでなく糖鎖非依存分解経路でも分解されることが明らかになりました。

    糖タンパク質の構造形成経路と分解経路の模式図

    不安定な糖タンパク質は糖鎖依存構造形成経路に入った後、糖鎖依存分解経路で分解される。一方で、シビアな構造異常糖タンパク質は、糖鎖依存構造形成経路に入った後、糖鎖依存分解経路または非依存分解経路で分解される。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1083/jcb.201504109
    [KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201885

    Satoshi Ninagawa, Tetsuya Okada, Yoshiki Sumitomo, Satoshi Horimoto, Takehiro Sugimoto, Tokiro Ishikawa, Shunichi Takeda, Takashi Yamamoto, Tadashi Suzuki, Yukiko Kamiya, Koichi Kato, and Kazutoshi Mori
    "Forcible destruction of severely misfolded mammalian glycoproteins by the non-glycoprotein ERAD pathway"
    The Journal of Cell Biology, vol. 211 no. 4 pp. 775-784 Published November 16, 2015

     

    • 京都新聞(1月13日 23面)に掲載されました。

    シビアな構造異常糖タンパク質が出現すると手順を踏まずに強制分解 -酵母にはない高等動物特有の小胞体糖タンパク質分解システムの解明-
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