脊椎動物の感覚神経の進化的起源 -脊椎動物のもつ多様な感覚神経は進化の過程で再獲得された-

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公開日

佐藤ゆたか 理学研究科准教授らの研究グループは、脊椎動物にもっとも近縁な動物であるホヤが脊椎動物型の感覚神経と無脊椎動物型の感覚神経の両方をもっていることを突き止めました。これらの感覚神経を作る遺伝子回路を調べたところ、我々の遠い祖先は、無脊椎動物型の感覚神経をもとにして脊椎動物型の感覚神経があらたに作りだしたことを示す証拠を見つけました。われわれ脊椎動物がどのようにして進化してきたのかを知る重要な成果です。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」誌の電子版で10月30日に公開されました。

研究者からのコメント

左から佐藤准教授、脇華菜 理学研究科博士後期課程学生

脊椎動物がどのようにして誕生したのか、という問題は、進化の研究の大きな謎とされてきました。ホヤは脊椎動物に最も近縁の動物群に属し、脊椎動物の起源の研究に迫るための有用な実験動物です。今回の研究を含め、脊椎動物を特徴づけるとされてきたプラコードと神経堤細胞は、原始的な姿で現在のホヤ胚に認められることが分子のレベルで実証されてきました。プラコードと神経堤細胞がどのように獲得され、我々ヒトを含む脊椎動物がどのように誕生したのかが明らかになってきました。

概要

現在の脊椎動物の感覚神経はどのようにして進化したのでしょうか? この疑問に答えるため、佐藤准教授の研究グループは、脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物であるホヤを使って研究をおこないました。

ホヤの幼生の尾部には背側と腹側に感覚神経が分化します。今回の研究で、感覚神経を作るための遺伝子回路は共通ですが、背側神経と腹側神経では その回路を作動させるための仕組みが異なることが明らかになりました。背側の作動機構は脊椎動物の作動機構に似ており、腹側の作動機構は無脊椎動物の作動機構に似ていました。このことは、ホヤと脊椎動物の共通の祖先である原始脊索動物が、神経板の境界領域で感覚神経を作り出す回路の作動スイッチにあたる機構をあらたに獲得したことを示唆しています。この領域の細胞はその後の進化の過程で、移動能力を獲得するなどして、現在の脊椎動 物の神経堤細胞へと進化し、多様な感覚神経系が作られていったと考えられます。また、ホヤの腹側にみられる無脊椎動物の感覚神経の遺伝子回路の作動機構は、脊椎動物では失われたものと考えられます。

つまり、これまで考えられていたように原始無脊椎動物の感覚神経が直接に脊椎動物の感覚神経に進化したわけではなく、我々の祖先は、原始的生物 の感覚神経を作る遺伝子回路を神経板の周囲で起動する「作動スイッチ」を獲得することで、その回路を再利用して脊椎動物の感覚神経が進化したと考えられます。

感覚神経の進化を示すモデル図: 脊椎動物は、感覚神経をつくる遺伝子回路を再利用しながらも、新しい作動スイッチにあたる機構を獲得して新しい場所で感覚神経を作るように進化したと考えられる

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9719
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/200841

Kana Waki, Kaoru S. Imai & Yutaka Satou
"Genetic pathways for differentiation of the peripheral nervous system in ascidians"
Nature Communications 6, Article number: 8719 Published 30 October 2015