研究成果

糖分を細胞内に輸送する膜たんぱく質の立体構造と動きを解明 -肥満やがんの抑制策に役立つ新たな知見-


2015年10月01日


     野村紀通 医学研究科助教、岩田想 同教授らは、ヒト・哺乳類において細胞内に果糖を選択的に輸送するGLUT5(グルットファイブ)という膜たんぱく質の立体構造を解析し、GLUT5が細胞膜において細胞の外側に向けて開いた状態(以下、「外開き」)と内側に向けて開いた状態(以下、「内開き」)の二つの立体構造を介して果糖を細胞内に輸送していることを明らかにしました。

     本研究成果は、2015年9月30日(英国時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン速報版で公開されました。

     

    研究者からのコメント

    左から野村助教、岩田教授

     これらの立体構造の情報は、GLUT5の輸送活性を阻害するための薬剤の分子設計に重要な指針を与えるものであり、今後、肥満や生活習慣病の予防・治療薬やがん細胞のマーカーなどの開発につながることが期待されます。

    概要

     ブドウ糖や果糖などの糖分子は生命維持に必須ですが、食物中の糖分子は糖輸送体という膜たんぱく質を介して、細胞内に取り込まれてエネルギーなどへ変換されます。この糖輸送体のうち、促進拡散によって糖分子を輸送する膜たんぱく質(GLUT)は、肥満や糖尿病だけでなく、がんの細胞増殖制御にも関与 していることが知られています。

     本研究グループでは、抗体フラグメントを結晶化の促進因子として用いる独自技術により、ヒトのGLUT5とよく似ているラットのGLUT5を結晶化することに成功し、その立体構造を原子レベルで解明しました。得られた立体構造は、GLUT5が外開きの状態であり、細胞の外からの果糖の流入・結合を待ち受けている構造と考えられます。また、ウシのGLUT5を結晶化し、立体構造を解明することにも成功しました。この立体構造は内開きの状態で、GLUT5が細胞内に果糖を放出して輸送を終えた瞬間の構造と考えられます。さらに、これらの立体構造を比較したところ、GLUT5を構成する二つの大きな部位が開閉するだけでなく、それらの部位の内部でも局所的な構造変化が起こることで、一度結合した果糖を細胞外に逃さずに効率良く細胞内に送り込むためのゲートが形成されることが明らかになりました。

    基質輸送に伴うGLUT5の構造変化モデル

    1. 果糖(五角形、緑色)が結合しやすい外開き状態の構造は、2組のヘリックスの束の下端部分に形成される複数の塩橋により安定化されている。また、細胞内のへリックス(ICH1-4、ICH5)もまとまっている。
    2. 果糖が結合することによって、へリックス7の上半分とへリックス10の下半分が動いて果糖を取り囲む。このとき、へリックス4とへリックス10の下端は近い位置にあり細胞内側のゲートが形成されている。
    3. 2組のヘリックスの束が剛体回転により大きく動いた結果、へリックス1とへリックス7の上端が近づいて細胞の外側のゲートが形成され、果糖が細胞外に散逸しない状態になる。その際に細胞内へリックス(ICH5)は、ICH1-4のまとまりから離れた位置に大きく動く。
    4. へリックス10の下半分が動いて細胞内側ゲートが開く。その結果、果糖が細胞の内側に放出される。このような輸送の仕組みを「ゲートポア機構」という。

    詳しい研究内容について

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nature14909

    [KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/199936

    Norimichi Nomura, Grégory Verdon, Hae Joo Kang, Tatsuro Shimamura, Yayoi Nomura, Yo Sonoda, Saba Abdul Hussien, Aziz Abdul Qureshi, Mathieu Coincon, Yumi Sato, Hitomi Abe, Yoshiko Nakada-Nakura, Tomoya Hino, Takatoshi Arakawa, Osamu Kusano-Arai, Hiroko Iwanari, Takeshi Murata, Takuya Kobayashi, Takao Hamakubo, Michihiro Kasahara, So Iwata & David Drew
    "Structure and mechanism of the mammalian fructose transporter GLUT5"
    Nature, Published online 30 September 2015

     

    • 朝日新聞(10月1日夕刊 7面)、京都新聞(10月1日 25面)、日刊工業新聞(10月2日 21面)および日本経済新聞(10月12日 11面)に掲載されました。

    糖分を細胞内に輸送する膜たんぱく質の立体構造と動きを解明 -肥満やがんの抑制策に役立つ新たな知見-
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