カイメン体内で微細な建築資材(ガラス質の骨片)を細胞が運び、立て、組み上げる全く新しい骨格形成機構を発見

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船山典子 理学研究科准教授の研究グループは、藤森俊彦 基礎生物学研究所教授、松本健郎 名古屋工業大学教授との共同研究で、カイメン動物の骨格は、カイメン体内で微細な骨片(ガラス質の針状の建築資材)を新たに発見した骨片運搬細胞がダイナミックに運び、骨片が立てられ、さらに繋げて組み上げて構築する全く新しい骨格形成機構であること、即ち、既知とは根本的に異なる動物の形づくり機構を発見しました。

本研究成果は、米国科学誌「カレント・バイオロジー」(電子版)に9月17日付けで掲載されました。

研究者からのコメント

船山准教授

本研究で解明された、一連の細胞の働きの繰り返しによる自己組織化としてそのときそのときの個体に合わせて骨格を構築できる機構は、既知の動物の骨格形成機構とは根本的に異なり、動物の形態形成機構に全く新しい知見を加えるものです。これまで見逃されていた同様の細胞作用による形作り機構がカイメン以外の生物でも用いられている可能性があります。また、カイメン動物は種ごとに非常に多様な形を持つこと、中にはとても不思議な形を持つものもあることが知られていますが、本研究で解明された骨格形成機構が、この様な多様な形づくりの基礎であるだろうと考えています。

骨片骨格が組み上げられる様子の動画を見ると、どうしてこのようなことが細胞の働きで出来てしまうのか、この様な仕組みがどうやって進化したのかなど、自然の仕組みの不思議を感じます。この研究成果、特に映像は、研究者に限らず子供から大人までの興味を刺激するものだと思います。多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいですし、思いがけないところでこの研究成果が発展するかも知れないと期待もしています。この研究を通じて私達は、生物学に限らず様々な分野の研究者と共に考え助け合う楽しさ、視野が広がっていく楽しさを学びました。これからもこの様に研究を続け、まだまだ残るカイメンの骨格形成の仕組みの謎を一つ一つ皆で解いていきたいと思っています。

概要

動物の体の形は骨格の形で決まるため、骨格形成機構を解明することは、動物の形作りの原理を知るために重要です。進化的に最も古い多細胞動物カイメンの骨格は、微細なガラス質の骨片が立てられ繋げられた基本的には柱と梁構造であることは知られていたものの、このような構造をどの様な細胞がどのような機構で形成するのかについては100年以上、全く未知のままでした。

本研究では、カイメン動物の骨格を構成する微細な骨片(ガラス質の針)を蛍光で可視化し、骨格形成野中心的な担い手である骨片を運搬する細胞を新たに発見し、骨片がカイメン体内において時には体の反対側にまでダイナミックに運ばれ、運ばれた先で骨片を体の表面の上皮組織に刺すことで骨片の先端が持ち上げられ、基底側端が固定されて柱の様に立てられ、さらに立った骨片の先に新たな骨片が繋げられるという、まるで建物の柱と梁を1本1本組み上げてゆくような動物の新規の骨格形成機構を発見しました。

本研究の結果、「あらかじめ決められたパターンに添って、細胞が集まり骨格パーツ(脊椎動物であれば軟骨など)を作り骨格が形成される」という既知の脊椎動物や昆虫の骨格形成機構とは根本的に異なる「骨格パーツ(骨片)を作る場によらず、自在に運んで骨格を次第に組み上げる」というカイメンのダイナミックで柔軟な骨格形成機構が解明されました。加えて、この様な骨格形成機構を持つからこそ、カイメン動物が周りの環境に合わせて個体を成長させ、生育条件が良ければ成長し続けられることが明らかになりました。

A: 研究に用いているカワカイメンの無性生殖系「芽球からの個体形成」では、直径約0.5mmの芽球の殻(gc)の中に入っている数千個の全能性幹細胞集団が、芽球の殻の外に這い出し、分裂・分化して殻の周りに機能的な小さな幼弱個体が形成される。この過程で全く骨格が無かったところから、骨片が立てられ、繋げられ、ポールでテントを支えるように体が支えられ、個体が成長する。B: 上皮組織の上を骨片を運ぶ細胞種を新たに発見、骨片運搬細胞と名付けた。C: 蛍光で骨片を可視化し、カイメンの下からタイムラプス撮影を行い運搬された骨片の軌跡を解析することで、骨片が体内をダイナミックに運ばれた後に立てられていることを明らかにした。D: カイメン側面からの詳細なタイムラプス撮影法を確立し得られた骨片骨格。左上の時間は撮影開始からの時間である。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2015.08.023
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201533

Sohei Nakayama, Kazushi Arima, Kotoe Kawai, Kurato Mohri, Chihiro Inui, Wakana Sugano, Hibiki Koba, Kentaro Tamada, Yudai J. Nakata, Kouji Kishimoto, Miyuki Arai-Shindo, Chiaki Kojima, Takeo Matsumoto, Toshihiko Fujimori, Kiyokazu Agata, and Noriko Funayama
"Dynamic Transport and Cementation of Skeletal Elements Build Up the Pole-and-Beam Structured Skeleton of Sponges"
Current Biology 25, Published Online: September 17, 2015

関連リンク

  • 朝日新聞(9月24日 12面)、京都新聞(9月26日 9面)および科学新聞(10月2日 4面)に掲載されました。