「悪魔の階段」現る -放射光の高強度軟X線が映し出した異常なスピン配列-

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齊藤高志 化学研究所助教と和達大樹 東京大学物性研究所准教授、石渡晋太郎 同工学系研究科准教授、十倉好紀 同工学系研究科教授(理化学研究所創発物性科学研究センター長)らの研究グループは、ドイツのLeibniz Institute for Solid State and Materials Research DresdenとHelmholtz-Zentrum Berlinの研究グループと共同で、巨大磁気抵抗を示すコバルト酸化物に対し、ドイツの放射光施設BESSY IIにおいて共鳴軟X線回折実験を行い、スピン配列の周期として理論的に考え得る全ての状態が存在し、それらが磁場をかけることにより変化する様子を明らかにしました。その磁場とともに何段にも変化する磁気構造の様子は「悪魔の階段」と呼ばれており、コバルトを含む鉄やマンガンなどの遷移金属の物質のスピンでは初めての発見となります。

本研究成果は、6月8日(日本時間)に「Physical Review Letters」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

「悪魔の階段」状態では、磁場を変化させることで物質中のスピン配列がさまざまに変化します。本研究の対象であるコバルト酸化物ではコバルトの持つスピンの配列が変化するとそれに応じて電気抵抗が大きく変化することから、磁場で電気抵抗を大きく変化させることができるという特徴があります。今後より詳細な観測実験を重ねるとともに、これまでに得られた知見をさらなる材料設計に活かしていくことにより、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発に繋がると期待できます。魅力ある新材料の創出に繋がるような研究を今後も進めていきたいと思います。

  • X線のうちでも比較的波長の長い軟X線を用いてコバルト酸化物における新しい磁気構造「悪魔の階段」状態を解明
  • 目に見えないほど小さな物質の磁気構造の詳細を軟X線によって決定した画期的な成果
  • 今後、同種の複雑な磁気構造が軟X線によって次々と発見されることにより、新しいタイプのスピントロニクス材料の開発などの実用化につながることが期待

概要

最近の放射光施設における軟X線を利用した回折測定のめざましい進歩は、薄膜やナノ構造などを含む極小試料におけるスピンの配列(磁気構造)の決定が可能となるなど、物質科学だけでなく、次世代のデバイスとして期待されているスピントロニクスへの応用が期待されています。

今回、本研究グループは磁場をかけることにより電気抵抗が変化する巨大磁気抵抗を示すコバルト酸化物に対し、ドイツの放射光施設BESSY IIにおいて共鳴軟X線回折実験を行い、スピン配列の周期として理論的に考え得る全ての状態が存在し、それらが磁場をかけることにより変化する様子を明らかにしました。その磁場とともに何段にも変化する磁気構造の様子は「悪魔の階段」と呼ばれており、コバルトを含む鉄やマンガンなどの遷移金属の物質のスピンでは初めての発見となります。


悪魔の階段とそれを生み出す磁気構造

詳しい研究内容について

「悪魔の階段」現る ~放射光の高強度軟X線が映し出した異常なスピン配列~

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.114.236403

T. Matsuda, S. Partzsch, T. Tsuyama, E. Schierle, E. Weschke, J. Geck, T. Saito, S. Ishiwata, Y. Tokura, and H. Wadati
"Observation of a Devil’s Staircase in the Novel Spin-Valve System SrCo6O11"
Physical Review Letters 114(23) 236403 Published 11 June 2015