映像に酔うと右脳と左脳の活動が乖離する現象を発見 -安全で快適な高臨場感映像技術開発の足がかりに-

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山本洋紀 人間・環境学研究科助教、宮崎淳吾 キヤノン研究員、明治国際医療大学らの研究グループは、映像に酔ってしまうと映像の動きを検出する脳部位の活動が右脳と左脳のあいだで互いに乖離する現象を脳機能イメージングを用いて発見しました。

本研究成果は、日本時間2015年5月26日午前1時(米国東海岸時間2015年5月25日正午)、ドイツ脳科学雑誌「Experimental Brain Research」誌の電子版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から宮崎研究員、山本助教

船酔い、車酔い、そして映像酔いと、酔い(動揺病)は文明の進化と共にどんどん身近なものになってきています。酔いそうな映像からは目を背けるのが一番ですが、そんな映像ほど人の目を引きつけるものでもあって、視聴者にとっても作り手にとっても逆説的で厄介な問題です。

今回、私たち産学連携チームは、映像に酔うと、大脳の一部、映像の動きを感じる視運動野で異変が生じることを突き止めました。この視運動野の変調を頼りに、映像酔いへの耐性を増す治療法や酔いを未然に防ぐ映像加工技術が開発できる可能性があります。

概要

近年、映像の技術革新が相次ぎ、ドローンによる空撮をはじめ臨場感の高い映像が急速に普及していますが、その一方で、映像酔いという弊害も顕著になり、その原因の究明と対策が急務となっています。

映像酔い発生の原因については諸説ありますが、自己の運動状態に関して、目からの視運動情報と内耳からの身体のバランス情報が矛盾することに起因するとする感覚矛盾説が通説となっています。しかし、その脳内過程はまだ解明されていません。また、この説では矛盾がなぜ酔いに至るのかも定かではありません。私たちはこの点に疑問を持ち、矛盾する以前に、脳での視運動情報の処理自体に何らかの異変が生じている可能性もあるのではないかと考えました。視運動を処理する脳部位であるMT+野は左脳と右脳の両方にあるのですが、機能的にも解剖的にも左右差がしばしば報告されています。もしかすると、映像酔いでも左右どちらかに異変が生じ、それが映像酔いの一端となっている可能性があります。

この仮説を検証するために、映像酔いを起こしやすい動画と起こしにくい動画で脳活動の波形が左右でどのくらい違うのかを、機能的MRIで調べました。その結果、酔いやすい動画をみているとき実際に酔った人たちのMT+野では、左脳と右脳で活動が乖離することがわかりました。

今回発見された映像酔いにともなうMT+野の変調現象は、映像酔いの神経メカニズムを理解する糸口になると考えています。今後、MT+野と他の脳領域とが映像酔いを生じる過程でどのように関わり合っているのかを明らかにすることで、映像酔いだけでなく、動揺病が生じるしくみの理解が進んでいくと考えられます。


激しい運動を含む主観映像を観察しているときの脳活動を機能的MRIを使用して測定しました。映像に酔った人の視運動野(MT+野)では、脳活動の左右半球間の相関が低下することがわかりました。

詳しい研究内容について

映像に酔うと右脳と左脳の活動が乖離する現象を発見 -安全で快適な高臨場感映像技術開発の足がかりに-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1007/s00221-015-4312-y

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198117

Jungo Miyazaki, Hiroki Yamamoto, Yoshikatsu Ichimura, Hiroyuki Yamashiro, Tomokazu Murase, Tetsuya Yamamoto, Masahiro Umeda, Toshihiro Higuchi
"Inter-hemispheric desynchronization of the human MT+ during visually induced motion sickness"
Experimental Brain Research Published online: 28 May 2015

  • 朝日新聞(5月26日 37面)、京都新聞(5月26日 27面)および産経新聞(5月28日 25面)に掲載されました。