炎症がRNA分解により制御されるメカニズムを解明 -二つのブレーキが炎症を巧妙にストップする-

ターゲット
公開日

三野享史 ウイルス研究所助教、竹内理 同教授らの研究グループは、ドイツMDC、近畿大学、大阪大学、東京大学、オーストラリア国立大学と共同で、病原体感染などに対する炎症反応が、RNA分解酵素Regnase-1とRNA結合蛋白質Roquinという、不必要なmRNAを分解する二つのブレーキシステムにより巧妙に制御されていることを解明しました。

本研究成果は、2015年5月21日付(米国東部時間)で米国科学誌「Cell」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

左から竹内教授、三野助教

今回の研究は、炎症の新規制御機構発見という重要性に加え、同じ標的を持つ2つのRNA分解システムが異なる時空間的制御を受けていることを示す、学術的にもこれまでに例のないものであると考えています。

今後、ヒト自己免疫疾患や炎症性疾患におけるRegnase-1、Roquinの機能を検討することで、これらの疾患の病態解明につなげていきたいと考えています。また、Regnase-1、Roquinの機能を変化させることは、自己免疫疾患や炎症性疾患などの創薬ターゲットとなることが期待されます。

  • Regnase-1とRoquinという二つの蛋白質が、炎症性サイトカインのRNAを分解することで炎症のブレーキとして機能
  • Regnase-1とRoquinは同じRNA構造を認識するが、その機能する空間/場、時期、メカニズムがそれぞれ異なることを解明
  • 炎症性サイトカインの過剰な産生で引き起こされる炎症性疾患の病態解明への貢献が期待

概要

細菌やウイルスなどの病原体が感染すると、マクロファージなど自然免疫担当細胞によりToll様受容体(TLR)を介して最初に認識されます。マクロファージは病原体を貪食するとともに、炎症性サイトカインという蛋白質を分泌し、これが周りの免疫細胞を活性化させたり、免疫細胞の炎症局所への集積を促すなどして、いわゆる炎症を引き起こします。炎症性サイトカインは、感染に伴いマクロファージ内で、DNAからmRNAが転写され、次にmRNAから蛋白質が翻訳されるというステップで作られますが、mRNAは単に転写で作られるだけでなく、分解されることでその量が調節されています。我々は、以前、RNA分解酵素Regnase-1を発見し、この分子が炎症性サイトカイン産生調節に重要であることを報告してきました(Nature 2009; Nature Immunology 2011; Cell 2013)。しかしながら、Regnase-1の標的mRNAの特異性や作用機構およびRegnase-1とRoquinの制御メカニズムの関係性は分かっていませんでした。

本研究では、二つの異なるRNA結合蛋白質Regnase-1とRoquinが時空間的に異なるメカニズムで共通の炎症性サイトカインmRNAを制御していることを解明しました。


Regnase-1とRoquinのサイトカインmRNA分解機構モデル

詳しい研究内容について

炎症がRNA分解により制御されるメカニズムを解明 -二つのブレーキが炎症を巧妙にストップする-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2015.04.029

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197955

Takashi Mino Yasuhiro Murakawa, Akira Fukao, Alexis Vandenbon, Hans-Hermann Wessels, Daisuke Ori, Takuya Uehata, Sarang Tartey, Shizuo Akira, Yutaka Suzuki, Carola G. Vinuesa, Uwe Ohler, Daron M. Standley, Markus Landthaler, Toshinobu Fujiwara, Osamu Takeuchi
"Regnase-1 and Roquin Regulate a Common Element in Inflammatory mRNAs by Spatiotemporally Distinct Mechanisms"
Cell Volume 161 Issue 5, Pages 1058–1073, 21 May 2015

  • 京都新聞(6月27日 11面)および科学新聞(5月29日 2面)に掲載されました。