研究成果

鹿児島県三島村竹島で発見されたヌカヅキヤツシロラン -光合成をやめてお辞儀をして自家受粉する新種のラン科植物-


2015年05月12日


     末次健司 白眉センター特定助教は、日本に生育する菌従属栄養植物の分布の調査とその分類の整理に取り組んでいます。その一環として実施した鹿児島県鹿児島郡三島村竹島での調査の中で、2014年4月に未知の菌従属栄養植物を発見しました。この植物は、ラン科のオニノヤガラ属に属し、これまで知られていたどの種とも異なる形態であることから、新種「Gastrodia flexistyloides」として記載されました。和名は、ずい柱が折れ曲がることをお辞儀に見立て、額が地面につくほどの丁寧なお辞儀・礼拝を意味する「額突き(ぬかづき)」を冠し、「ヌカヅキヤツシロラン」と名づけられました。

     本研究成果は、植物分類学の国際誌「Phytotaxa」に掲載されました。

    研究者からのコメント

    末次特定助教

     菌従属栄養植物は、植物の最たる特徴といえる光合成をやめ、きのこなどの菌類に寄生して生活しています。この光合成をやめる過程ではどのような進化が起こったのでしょうか? これは古くから注目を集めるテーマでしたが、菌従属栄養植物の多くが稀少種であるため、その解明は難しいとされてきました。そこで私は、研究の土台とすべく、野外における徹底的な探索と記載分類を行っています。今回発見されたヌカヅキヤツシロランは、光合成だけではなく、開花もやめていました。このような進化は、昨年発見したタケシマヤツシロランでも見られます。

     菌従属栄養植物は光合成を行わないため、光の届かない林床を生育地としていますが、暗い林床にはハナバチなどの訪花性昆虫も訪れません。そのため、菌従属栄養植物は暗い林床でも確実に繁殖できるように、受粉に昆虫のサポートを必要としない自殖を採用し、さらには花を咲かせることもやめた可能性があります。つまり、菌従属栄養植物が光合成をやめる過程で、送粉者など他の生物との共生関係までも変化させた可能性が示唆されました。今後も菌従属栄養植物の分類学的、生態学的研究を行うことで、植物が「光合成をやめる」という究極の選択をした過程で起こった変化を、一つでも多く明らかにしたいと考えています。

    概要

     植物の中には、自らは光合成能力を行わず、糖を含むすべての養分を他の植物や菌類から略奪するという特異な進化を遂げた「従属栄養植物」と呼ばれる種が存在します。中でも菌類に依存するものを「菌従属栄養植物」といいます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期にしか地上に姿を現しません。また花期も短く、サイズも小さいものが多いため、見つけることが非常に難しいです。加えて、葉などの光合成器官が退化していることから分類形質が少ないため、同定も困難です。これらの要因から、植物の調査研究が比較的進んでいる日本においても、菌従属栄養植物の正確な分布情報についてはあまり解明が進んでいないのが現状です。

     そこで末次特定助教は日本国内における菌従属栄養植物の分布情報の整理に取り組んでいます。その一環として、鹿児島県三島村竹島において調査を行っていたところ、未知の菌従属栄養性のラン科植物を発見しました。この植物は、オニノヤガラ属に属し長い花筒をもつことから、既知種の中ではハルザキヤツシロランや、末次特定助教が昨年度発表したタケシマヤツシロランに近縁と考えられます。特に花筒が開かない、開花時期の背が高いといった外見上の特徴は、タケシマヤツシロランに極めて類似しています。しかし、タケシマヤツシロランでは黒褐色である花被片の色が本種では淡褐色であることや、花期がタケシマヤツシロランよりも1~2週間早いことから、花の内部形態を精査したところ、ずい柱や唇弁の形態がタケシマヤツシロランとは異なっていることがわかりました。

     特に本種の、ずい柱の中心部分が折れ曲がり、葯帽(花粉塊)とともに柱頭に接着して自動自家受粉するという特徴は、既知の日本産オニノヤガラ属植物には見られない特徴でした。また他の形質も併せて検討した結果、海外の種を含めても本種と同種と考えられる種はありませんでした。そのため本種は、新種として記載され、「Gastrodia flexistyloides」(和名「ヌカヅキヤツシロラン」)と命名されました。


    図:ヌカヅキヤツシロランの自動自家受粉様式(ずい柱の中心部分が折れ曲がり、葯帽(花粉)とともに柱頭に接着している。この部分をお辞儀に見立てた)

     

    詳しい研究内容について

    鹿児島県三島村竹島で発見されたヌカヅキヤツシロラン -光合成をやめてお辞儀をして自家受粉する新種のラン科植物-

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.11646/phytotaxa.175.5.5

    Kenji Suetsugu
    "Gastrodia flexistyloides (Orchidaceae), a new mycoheterotrophic plant with complete cleistogamy from Japan"
    Phytotaxa 175 (5): pp. 270–274 published: 15 Aug 2014

    掲載情報

    • 京都新聞(5月8日夕刊 8面)に掲載されました。

    鹿児島県三島村竹島で発見されたヌカヅキヤツシロラン -光合成をやめてお辞儀をして自家受粉する新種のラン科植物-
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