KRAS遺伝子変異を持ったがんを標的とした新規のアルキル化剤の開発について

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杉山弘 理学研究科/物質-細胞統合システム拠点教授、永瀬浩喜 千葉県がんセンター研究所長らの研究グループは、同センター消化器内科などと共同し、今までなかった難治性のKRASがん遺伝子変異を持ったがんに対する治療薬を開発しました。

本研究成果は、2015年4月27日(日本時間18時)に「Nature Communications」に公開されます。

研究者からのコメント

日本で毎年約3万人の患者がKRASコドン12の変異を持つがんに罹患し、多くが難治性のがんとなりますが、KRASに対する分子標的治療薬は開発されていません。本研究により、抗KRAS効果が確認された化合物KR12は、国からの援助のもとに難治性のがん患者向け治療薬として開発中であり、期待されています。また、本化合物の開発技術は理論上他のあらゆるがんに応用ができるため、今後は治療法のなくなったがん患者一人一人に合わせた治療薬を供給する新たな道筋となり得ます。

概要

難治性のがん患者、治療法のないがん患者に一日でも早く効果的な抗がん剤を届けるためには、がんの原因遺伝子・ドライバー遺伝子をたたくことが重要であることを、分子標的治療薬の開発の歴史が物語ってきました。本研究グループは、がんに関わるたんぱく質でなく、遺伝子を直接狙い撃ちする方法を開発するため、DNAの副溝を配列特異的に認識するピロールイミダゾールポリアミドと、やはりDNAをアルキル化するアルキル化剤について研究を進めてきました。

これは、放線菌などの細菌が他の細菌が持つ遺伝子を認識して破壊し、他の菌から自分の増殖の場を守る目的で用いてきた抗生物質と同じものです。本研究グループは、この遺伝子の配列認識をがん細胞特異的に作り変えて自動的に合成できる仕組みを開発しました。

今回開発された薬剤は、通常の化学療法に用いるアルキル化剤をがんの原因となるがん遺伝子(ドライバー遺伝子変異)に直接作用させることで、がん遺伝子を破壊し、さらに従来の化学療法剤としての効果も果たします。実際にヒト大腸がん移植マウスを用いた実験では、低濃度の薬剤で副作用なく腫瘍が縮小する高い治療効果が得られました。


図:KRAS遺伝⼦変異を持ったがんを標的としたアルキル化

詳しい研究内容について

KRAS遺伝子変異を持ったがんを標的とした新規のアルキル化剤の開発について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1038/ncomms7706

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/230862

Kiriko Hiraoka, Takahiro Inoue, Rhys Dylan Taylor, Takayoshi Watanabe, Nobuko Koshikawa, Hiroyuki Yoda, Ken-ichi Shinohara, Atsushi Takatori, Hirokazu Sugimoto, Yoshiaki Maru, Tadamichi Denda, Kyoko Fujiwara, Allan Balmain, Toshinori Ozaki, Toshikazu Bando, Hiroshi Sugiyama & Hiroki Nagase
"Inhibition of KRAS codon 12 mutants using a novel DNA-alkylating pyrrole–imidazole polyamide conjugate"
Nature Communications 6, Article number: 6706 Published 27 April 2015