発達中の脳で神経細胞内のエネルギーを維持するしくみを解明

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見学美根子 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授らは、脳神経回路を形成する過程で急速に発達する神経細胞の隅々までエネルギーが供給されるメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、米国東部時間4月7日午後5時(日本時間8日午前6時)に米国の科学雑誌「The Journal of Neuroscience」に公開されました。

研究者からのコメント

本研究により、複雑な形態をもつ脳神経細胞がエネルギー供給系を組み合せてATP(アデノシン3リン酸)レベルを維持するメカニズムが明らかになりました。また細胞内の急激なATP枯渇を防ぐため、ATP消費を抑制する負のフィードバック制御により細胞機能を維持する機構の存在が示唆されました。今後は酸欠や虚血でATP不足に陥った神経細胞が、どのような補完機構を作動させるかを明らかにし、治療法への開発に繋げていきたいと考えています。

概要

細胞は、糖を分解する過程で作られるATP(アデノシン3リン酸)というエネルギー分子を用いてさまざまな代謝反応を推進します。神経細胞は複雑に分岐した突起を連結して神経回路を形成し、その活動に多くのATPを消費しますが、神経細胞の樹状に展開する突起全長にATPが供給されるメカニズムは十分に明らかになっておらず、特に脳発達の過程で急激に容積と複雑性が拡大する神経細胞全体にATPが供給される機構については全く明らかでありませんでした。

そこで本研究グループは、小脳プルキンエ細胞という大型のニューロンの発生過程において、ミトコンドリアが突起内に運搬され、ATPを現地生産することが、突起の成長に不可欠であることを証明しました。また突起内でのATPレベルの維持にはミトコンドリアの酸素呼吸とクレアチンシャトルの連動が必要で、解糖系の寄与は小さいことを明らかにしました。さらに、発達中の神経細胞突起では主に細胞運動を制御するアクチン代謝がATPを消費し、ATP枯渇条件ではアクチン代謝が減速して突起成長が抑えられることを証明しました。

本研究成果は神経細胞のエネルギー戦略の一端を明らかにしたもので、虚血による神経細胞のダメージやミトコンドリア変性を伴う神経変性疾患の病態解明や治療法の開発につながる可能性があります。


図:成長する神経突起では、近くまで運ばれたミトコンドリアが生産したATPエネルギーをクレアチンシャトルという機構でさらに末端まで運ぶ。このATPはコフィリン分子を制御して細胞骨格アクチンが突起を成長させる力に変換される。ATPが不足するとアクチン代謝が止まり、突起の成長でATPを消費させないようにする。

詳しい研究内容について

発達中の脳で神経細胞内のエネルギーを維持するしくみを解明

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.4115-14.2015

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197310

Kansai Fukumitsu, Kazuto Fujishima, Azumi Yoshimura, You Kure Wu, John Heuser, and Mineko Kengaku
"Synergistic Action of Dendritic Mitochondria and Creatine Kinase Maintains ATP Homeostasis and Actin Dynamics in Growing Neuronal Dendrites"
The Journal of Neuroscience, 35(14) pp. 5707–5723, 8 April 2015