研究成果

放射光施設SPring-8で鉄触媒の作用を直接観察


2015年03月16日


     高谷光 化学研究所准教授、中村正治 同教授らは、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)において、大型放射光施設SPring-8を利用して鉄触媒を用いるクロスカップリング反応の様子を反応溶液中で直接観察することに成功し、これまで45年間反応機構が未解明であった鉄クロスカップリング反応について、直接証拠に基づいた新しい機構の提唱を行いました。

     本研究成果は、2015年3月15日(日本時間)発行の日本化学会欧文誌「Bulletin of the Chemical Society of Japan」の論文賞であるBCSJ賞を受賞し、本紙およびオンライン版に掲載されました。

    研究者からのコメント

    左から中村教授、高谷准教授

     現在、私たちはFe触媒独⾃の反応性の起源となっているラジカル中間体の反応の様子を、パルスX線を用いた時分割XAFSという手法で観察し、分子構造決定する研究を開始しています。Feクロスカップリングの触媒サイクルで未知のままとなっている最後のピースが見つかるだけでなく、例えば不斉クロスカップリング反応のように医薬中間体で重要な光学活性体を合成する、新しいタイプのFeクロスカップリング反応の開発につながります。

     分子レベルでの精緻な反応機構解析が可能になることで、鉄触媒による有機合成の可能性がどんどん広がり、安価で安定して入手できる鉄触媒が有機工業化学、自動車排ガス処理、燃料電池など、次世代の基盤化学技術分野で大きな貢献ができると考えています。

     今回の反応機構の解析を第一歩として、鉄触媒精密有機合成反応の大規模実用化を20年後に実現すべく研究を続けていきます。

    概要

     現行の有機工業化学、自動車排ガス処理、燃料電池では、主として貴金属元素Pd、Pt、Rh、Ru等が触媒として利用されていますが、これらの貴金属は地殻含有量が極端に小さい高価な元素であり、地域遍在性が高いため、政治的な要因によって供給困難、価格高騰等の問題が頻繁に生じるハイリスクな元素となっています。日本産業が持続的かつ安定して成長発展するためには、経済的、地政学的なリスクの低いFe、Mg、Al、Si等の普遍元素を用いて高活性、高選択的な新型触媒の開発が求められており、これらの元素の有効活用が触媒元素戦略の主たる研究課題とされています。

     これまで本研究グループでは、普遍元素による貴金属代替触媒システムの開発に注力した研究を行い、Fe触媒とMg反応剤(グリニャール(Grignard)反応剤)から発生する有機Fe活性種を利用したクロスカップリング反応の開発に成功しています。クロスカップリング反応は、医薬品合成、液晶や有機EL等の電子材料の合成に必須の炭素-炭素結合形成反応として最も重要な有機合成反応の一つとなっていますが、従来まではPdが触媒として用いられてきました。しかしながら、貴金属であるPdの触媒利用はコスト面に加えて、最終製品からの金属残渣の除去が難しいという問題があります。

     一方、安価で入手容易な鉄を触媒して用いる鉄クロスカップリング反応は、従来の貴金属触媒によるクロスカップリング反応に代わる次世代の基盤化学技術として期待されています。しかし、鉄を触媒とする反応では、その常磁性のためにNMR等の一般的な分析手段を用いて触媒反応の様子を調べることができませんでした。そのため触媒機能の向上や反応効率の改善のために、鉄の触媒作用を直接観察できる新しい手法の開発が望まれていました。

     そこで本研究グループは、大型放射光施設SPring-8の強力なX線を利用したX線吸収分光(XAFS)を用いて、クロスカップリング反応中で鉄触媒のはたらきや構造を直接観察することに成功し、45年以上議論の続いている鉄触媒クロスカップリング反応の機構を明らかにしました。

     本研究の成果は、鉄触媒を用いる有機合成反応のさらなる発展と深化に必須の分析手段であるだけでなく、常磁性のために触媒作用の解明が遅れているCr、Mn、Co、Cu等の元素戦略上重要な他のベースメタル触媒の研究においても画期的な分析手段になり得るものです。


    図:FeX2(SciOPP)によるクロスカップリング反応機構と触媒中間体のEXAFSスペクトル

     

    詳しい研究内容について

    放射光施設SPring-8で鉄触媒の作用を直接観察

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1246/bcsj.20140376

    [KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/196165

    Hikaru Takaya, Sho Nakajima, Naohisa Nakagawa, Katsuhiro Isozaki, Takahiro Iwamoto, Ryuji Imayoshi, Nicholas J. Gower, Laksmikanta Adak, Takuji Hatakeyama, Tetsuo Honma, Masafumi Takagaki, Yusuke Sunada, Hideo Nagashima, Daisuke Hashizume, Osamu Takahashi, and Masaharu Nakamura
    "Investigation of Organoiron Catalysis in Kumada-Tamao-Corriu-Type Cross-Coupling Reaction Assisted by Solution-Phase X-ray Absorption Spectroscopy"
    Bulletin of the Chemical Society of Japan Vol. 88 (2015) No. 3 P 410-418 Released on J-STAGE 20150315


    放射光施設SPring-8で鉄触媒の作用を直接観察
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