薄く平らな葉:「当たり前」に秘められた「超」効率的な構造を発見 -自然の知恵から、新たな平面構造の開発・応用に期待-

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公開日

小野田雄介 農学研究科助教とオランダの共同研究者は、新しく開発した力学測定法により、陸上植物の葉がなぜ薄くても壊れずに長期間その構造を維持できるのかについて、そのメカニズムを明らかにしました。

本研究成果は、英国の植物雑誌「Journal of Experimental Botany」に2015年2月12日付けにて掲載されました。

研究者からのコメント

小野田助教


生物の形の仕組みを明らかにすることは、その生態や進化を理解する上でとても重要なことです。葉は光を効率的に集めるために薄っぺらい構造をもっていますが、その一方で、多少の風雨にも耐え、長いものでは10年以上の寿命があります。今回の研究により、植物の葉は「サンドイッチ構造」という飛行機の翼にも使われる仕組みを使って、薄くても丈夫という相反する条件を巧みに満たしていることが分かりました。本発見が、植物科学の発展だけでなく、薄くかつ耐久性の⾼い構造設計に応⽤されることが期待されます。

概要

植物の葉は、効率的な光吸収のために薄い構造をもっていますが、一方で、多少の風雨にさらされても壊れません。葉の断面をみると、外側の表皮組織と内側の葉肉組織に大別することができ、工学で用いられている「サンドイッチ構造」に似ています(図)。しかし、葉の表皮組織と葉肉組織は密着しているため、両組織を分離して硬さを測定することはできず、葉がどの程度効果的なサンドイッチ構造をもっているかは分かっていませんでした。

そこで、本研究グループは、葉の組織を分解せずに、表皮組織と葉肉組織の硬さを測る方法を考案し、それをさまざまな植物の葉に応用しました。

葉の曲げ試験と引っ張り試験による硬さ測定を組み合わせることにより、表皮組織と葉肉組織を分離することなく、それぞれの硬さを評価する方法を開発しました。この手法による測定を36種のさまざまな植物について行った結果、草木に関わらず、表皮組織の硬さは葉肉組織の硬さに比べ圧倒的に高く、葉は非常に効率的なサンドイッチ構造であることがわかりました。また表皮の硬さにおいて、表皮組織の最外面にあるクチクラ(厚さ0.1~10um程度)が特に重要であることもわかりました。これらの結果は、植物が長年の進化の歴史を経て、「薄くかつ力学的にも安定」という相反する制約を巧みに克服してきたと言えます。

陸上の植物は、5億年の進化の歴史を経て、極めて洗練された構造をもっており、そのような構造を明らかにすることは、植物科学の発展だけでなく、薄くかつ耐久性の高い構造設計など工学的応用にも繋がると期待されます。


図:葉(左)と飛行機翼(右)の断面構造(右はAdem Rudin氏提供)

詳しい研究内容について

薄く平らな葉:「当たり前」に秘められた「超」効率的な構造を発見 -自然の知恵から、新たな平面構造の開発・応用に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1093/jxb/erv024

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/193675

Yusuke Onoda, Feike Schieving, and Niels P.R. Anten
"A novel method of measuring leaf epidermis and mesophyll stiffness shows the ubiquitous nature of the sandwich structure of leaf laminas in broad-leaved angiosperm species"
Journal of Experimental Botany published February 11, 2015

掲載情報

  • 朝日新聞(2月13日 30面)、京都新聞(2月15日 24面)および日本経済新聞(2月17日 15面)に掲載されました。