高齢者の転倒危険度を評価する計測システムを開発

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青山朋樹 医学研究科准教授、山田実 筑波大学人間総合科学研究科准教授および高橋正樹 慶應義塾大学理工学部准教授らによる研究グループは、高齢者の日常生活自立度低下(寝たきり化)につながる転倒事故の抑止のため、被験者の転倒リスクを評価して転倒予防の意識啓発を促す計測システムを開発しました。

本システムは、村田機械株式会社が製品化し、同社グループ会社の株式会社日本シューターより「STEP+」(ステップ プラス)の製品名で、2014年12月(出荷は2014年1月)より全国の医療・介護施設などへ販売されます。

研究者からのコメント

高齢者の転倒は寝たきりなどの介護要因として、その予防は極めて重要です。転倒のリスク要因はいくつかありますが、その一つに二重課題処理能力の低下があります。これは「考えながら歩く」「話しながら手を動かす」などの二つのことを同時に行う能力ですが、高齢者はこの二重課題処理能力が低下することで転倒しやすくなります。

今回、筑波大学、慶應義塾大学、村田機械と共同で開発した「STEP+」は二重課題処理能力を定量化するとともに能力強化することが期待され、今後の高齢者の転倒予防に期待しています。

ポイント

  • 本システムは、足を前後左右に踏み出すなどのテスト方法により被測定者の身体機能を計測し、測定結果を転倒リスクとの関連性に結び付けて評価するものである。
  • 高齢者の転倒事故による外傷や脳疾患を要因とする寝たきり化が大きな社会問題となり、医療業界、介護・福祉業界や公共団体等でも転倒予防に取り組む風潮が高まっているものの、客観的な評価指標がなく、転倒予防に取り組む事業者などからの要望が高まっている。
  • 簡便な測定方法で身体機能を評価できるよう研究を行った。

概要

これまで高齢者の転倒の発生には運動機能低下(主として筋力低下やバランス機能低下)が関連すると考えられてきました。しかしながら、1997年に「歩行中に話しかけられると立ち止まってしまう高齢者では、その後の転倒発生リスクが高まる」という研究報告がなされ、その後は転倒には単純な運動機能低下だけでなく、中枢神経系の機能も絡めた複雑な機能低下が関与しているとの考え方が広まってきました。さらに、二重課題(デュアルタスク)処理能力(二つの課題を同時に処理する機能)の低下が転倒を惹起する要因となっているという仮説が近年注目されています。

これまでの研究によって、このような機能が低下している高齢者では、その後に転倒しやすいことや、適切なトレーニング(二重課題処理能力向上トレーニング)によってこれらの機能向上効果が得られることなどが明らかになっています。また、特徴的な点は、全ての高齢者にこのような現象が該当するのではなく、比較的元気な高齢者にはこのような現象が当てはまる一方で、いわゆる虚弱な高齢者では二重課題処理能力よりも筋力低下の方が強く転倒発生に関与していることも明らかにされています。しかし、これまでの二重課題処理能力の測定では、再現性、妥当性は担保されていますが、詳細な定量的評価という点においては十分とは言えませんでした。

そこで本研究グループは、定量的に二重課題処理能力を測定するというコンセプトの基に、転倒発生リスクを評価するための機器を考案し、村田機械株式会社の研究開発部門にて本システムの製品化を行いました。本計測システムは測定装置本体、計測時の基準として設置するポール、マット、PC(ソフトウエアのみ提供)で構成されます。本計測システムでは、「小型、軽量で持ち運びやすい」をコンセプトに、どこでも手軽に転倒危険度を測定できることを目指しました。各構成部品の設計においても、被測定者の不意の転倒に配慮し、樹脂製ポールを採用。安全に考慮したデザイン・材質を採用しました。また、PCの表示画面には大きな文字やイラストを用い、高齢者にも直感的に分かりやすいデザインとしました。

また、本計測システムで実装されている足位置計測アルゴリズムは、実際に介護施設や高齢者の健康イベント等でデモンストレーションを実施し、さまざまな被験者の足の動きをデータとして収集し、開発当初には想定していなかった高齢者独特の足の動きにも対応可能となるよう改良を重ねてきました。


今回開発した「STEP +」と開発メンバー(右から5番目が青山准教授)

詳しい研究内容について

高齢者の転倒危険度を評価する計測システムを開発

掲載情報

  • 日刊工業新聞(12月10日 21面)および科学新聞(1月1日 6面)に掲載されました。