研究成果

温度を感じる神経系の基本的なしくみ、解明される


2014年11月19日


      井上武 理学研究科特定助教、阿形清和 同教授らのグループは、生物の生存に最も重要なものの一つである温度をどのようにして感知しているのか、という問題に対して、単純な脳をもつプラナリアを使って、温感神経で感知した温度情報を脳に伝えて適切な行動をとるための一連のしくみを明らかにしました。さらに、これまで生物にとって不利な環境と考えられてきた低温でも、生存戦略として利用している可能性が見い出されました。

     本研究成果は、2014年11月19日午前7時(日本時間)に米国科学誌「The Journal of Neuroscience」のオンライン版で公開されることになりました。

    研究者からのコメント

    左から阿形教授、井上特定助教

     本研究グループは、これまでに解析してきた光などの外界環境からの刺激の処理機構に加えて、今回、生物全般にとって重要な温度センシングの神経経路の一端を明らかにしました。動物は、さまざまな外界環境の情報を受容して、脳内で処理することで、環境に適応して生存していくことが可能です。これらの複雑な環境情報に対する脳の処理機構については、まだまだ未知の部分が多く、これからの課題です。

     また、今回、プラナリアの温度に対する興味深い反応を発見することが出来ました。これは、同じ温度環境でも、生物によっては異なる反応をすることを示しており、生物種による違いを生み出した進化的な意義も今後明らかにしていきたいと考えています。

    概要

     多くの生物で、環境温度がわずかに変動するだけでも、行動様式、恒常性、生存、生殖戦略に影響してしまいます。これは、私たち恒温動物に限らず、自分で体温をコントロールできない変温動物では、温度を的確に感知することは特に重要な問題ですし、また、温度を感知する機構が、進化の過程でどのように獲得されてきたかは謎でした。変温動物であるプラナリアは、温度変化によって、自切(分裂)頻度、体のサイズ、無性生殖から有性生殖への転換などさまざまな変動がみられることが昔から知られており、温度と生き物の関係性を調べるのに非常に興味深い動物です。

     そこで本研究グループは、プラナリアの温度に反応する行動を指標にして解析を始めました。まず、さまざまな感覚刺激に重要な働きをしていて、動物界で広く保存されているTransient Receptor Potential(TRP)ファミリーのタンパク質に着目して、プラナリアの温感神経細胞を同定しました。温感神経は、プラナリアの全身に分布していることがわかりましたが、プラナリアが温度に反応して適切な行動をとるためには、脳の活動が必要で、全身で感知した情報が脳に送られることが分かりました。次に、多くの種類がある脳のどの神経細胞の種類が、温度情報を処理しているかを調べた結果、セロトニン神経細胞が働いていることを突き止めました。この機構は、多くの動物で利用されている温度感知システムの原型と考えられます。さらに、私たちヒトも含めて動物は、一般に低温を嫌いますが、プラナリアは、反対に低温を好むことも分かりました。これは、これまでに知られている動物の温度に対する反応として、初めて発見されたものです。

     これまで、低温は生物にとって不利と考えられてきましたが、体を低温にすることで、代謝を低下させてエネルギー消費量を抑えたり、生殖様式を転換したりと、積極的に低温を生存戦略に利用している可能性も示唆されました。

    プラナリアは好冷性の行動をする。この行動は、TRPM発現温感神経と脳のセロトニン神 経によって制御されていることを明らかにした。

    詳しい研究内容について

    温度を感じる神経系の基本的なしくみ、解明される

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1523/JNEUROSCI.5379-13.2014

    Takeshi Inoue, Taiga Yamashita, and Kiyokazu Agata
    "Thermosensory Signaling by TRPM Is Processed by Brain Serotonergic Neurons to Produce Planarian Thermotaxis"
    The Journal of Neuroscience, 19 November 2014, 34(47):15701-15714

    掲載情報

    • 読売新聞(12月8日 15面)に掲載されました。

    温度を感じる神経系の基本的なしくみ、解明される
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