研究成果

チンパンジーと人間の子どもの描画の比較


2014年10月28日


     松沢哲郎 霊長類研究所教授、林美里 同助教、齋藤亜矢 中部学院大学准教授、竹下秀子 滋賀県立大学教授らの研究グループは、チンパンジーと人間のお絵かきの発達について比較したところ、チンパンジーも絵を描くのが好きですが、人間だけが想像をもとにした絵を描くことがわかりました。

     本研究成果は、「Child Development」の電子版に掲載されることになりました。

    研究者からのコメント

    左から、松沢教授、齋藤 中部学院大学准教授、林助教

     本研究から、チンパンジーの描画について深く知ることで、人間の描画の発達の特徴が見えてきました。いわゆる非定型と呼ばれる、障害をもったお子さんたちの描画についての研究が進み、理解が深まるでしょう。また、これまで言語や道具や家族について語られてきた人間の本性が、絵画・描画・お絵かきという分野にあることが明確に示されたと思います。

     今後は、人間の子どもやチンパンジーの同属別種であるボノボとの比較研究に進みます。

    概要

     これまでの研究から、進化の隣人であるチンパンジーなどの類人猿がお絵かきをすることはわかっています。他の動物の例と違って、教え込むのではなく、自由にお絵かきをします。しかし彼らが描くのは「なぐりがき」とされていて、顔などの「何か」を表した絵(表象描画)を描いた例はありません。人間の子どもは、幼いうちは「なぐりがき」をしていますが、3歳ごろになると顔などの表象を描きはじめます。この過程にどのような発達的な変化がおこるのでしょうか。そして表象を描かないチンパンジーとの違いはどこにあるのでしょうか。

     本研究では、それぞれのお絵かきの特徴を調べるために、二つの検査を新たに発案しました。人間の実験者がお手本として簡単な形を描いてみせる模倣課題と、目などのパーツが段階的に欠けた不完全な顔の線画にお絵かきする課題です。霊長類研究所のチンパンジーたちと、1歳から3歳の人間の子どもたちを対象として、同じ方法で検査しました。その結果、明瞭な違いがみられました。人間は、まだ描線をうまくコントロールできないうちから、足りないパーツを補って顔を完成させようとします。それとは対照的に、チンパンジーは、線をなぞるなど、細かい描線のコントロールができても、足りないパーツを補って顔を完成させることはなかったのです。

     描線を「何か」に見立て、それに足りないものを補う。いわば想像力に関わる認知的な特性こそ、人間が進化の過程でとくに発達させた知性の一つであることが、この研究から示唆されました。それに対してチンパンジーは、すでに描かれたものに注目し、そこに描かれていないものに思いをはせることはないようです。その背景には、言語の獲得との関わりが予想されます。

    左の図は、輪郭をなぞったチンパンジーの絵(左)と「ない」部位を補って顔を描いた3歳2カ月の人間の絵(右)、右写真は、お絵かきするチンパンジー(パル、5歳)

    詳しい研究内容について

    チンパンジーと人間の子どもの描画の比較

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1111/cdev.12319

    Aya Saito, Misato Hayashi, Hideko Takeshita and Tetsuro Matsuzawa
    "The Origin of Representational Drawing: A Comparison of Human Children and Chimpanzees"
    Child Development Article first published online: 6 NOV 2014

    掲載情報

    • 朝日新聞(10月28日夕刊 9面)、京都新聞(10月28日 28面)、産経新聞(10月28日 28面)、中日新聞(10月28日 29面)、日本経済新聞(10月28日 38面)、毎日新聞(10月28日 27面)および読売新聞(10月28日 38面)に掲載されました。

    チンパンジーと人間の子どもの描画の比較
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