研究成果

X線可飽和吸収を世界で初めて観測 -SACLAの世界最強X線レーザーが切り拓く新たな世界-


2014年10月06日


     北村光 理学研究科助教、米田仁紀 電気通信大学教授、矢橋牧名 理化学研究所放射光科学総合研究センタービームライン研究開発グループディレクター、 犬伏雄一 高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室研究員らと、山内和人 大阪大学工学研究科教授、三村秀和 東京大学工学系研究科准教授らを中心とした共同研究グループは、 X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)施設「SACLA」を使い、 X線可飽和吸収の観測に成功しました。

     本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Nature Communications」誌の10月1日号に掲載されました。

    研究者からのコメント

     私は本共同研究において京都大学から唯一の参加者なのですが、実験そのものではなく、理論モデルを構築して実験結果に物理的解釈を与える役割を担いました。

     本実験で用いられた試料は、私たちにとって馴染み深い金属である「鉄」ですが、SACLA からの強力なX線が照射されると、大多数の原子の内殻電子がイオン化された特異な状態が、瞬間的に実現すると考えられます。その際、X線吸収スペクトルがどのように変化するかを、物性論的な見地から計算したところ、実測データの傾向を概ね再現できることがわかりました。

     この特異な物質状態が、フェムト秒というきわめて短い時間内に生成・崩壊する過程を詳細に理解するためには、今後、理論の精度を向上させなければなりません。複数の分野にまたがる理論的アイデアの集結が必要であり、基礎研究と応用の両面から、魅力的な課題だといえます。

    ポイント

    • X線の強度を高めると、 物質がどんどん透明に。
    • 世界最高強度のX線レーザーにより初めて実現
    • アト秒X線光学の開拓に向けて大きな飛躍

    概要

     光を物質に照射すると、物質ごとに決まった量が吸収されますが、 光の強度を高めていくと、 物質が光を吸収できなくなり透明化する 「可飽和吸収」という現象が起こることが知られています。可飽和吸収は、 可視光の領域で半世紀以上前に発見され、 物質を透明化させることで光の通り道(光導波路)を作り出すなど、光通信をはじめとする先端技術にも幅広く利用されています。 短波長の光であるX線も、 強度を高めると可飽和吸収が起こることが理論的に予測されていました。 X線可飽和吸収は、 強度の高いX線が照射された部分に選択的に起こるため、 光導波路や、 超高速のX線スイッチング素子といった、 さまざまなX線光学デバイスへの応用が期待されます。 しかし、 X線領域で可飽和吸収を起こすには、 X線の強度を極端に高くする必要があるため、 実際に成功した例はありませんでした。

     そこで本共同研究グループは、 これまで、 SACLAが生成する高輝度X線レーザーに対して、 独自に開発した二段集光光学システムを適用することにより、 1020W/cm2 という世界最高強度のX線の生成に成功しています。 今回、 このX線レーザーを鉄の薄膜に入射させて吸収スペクトルを計測したところ、 通常の状態に比べ、 X線の透過率が10倍以上増大することが分かりました。 また、X線の強度が高い部分だけが透明になるため、吸収する物質内にX線導波路を形成できることも明らかになりました。


    図:X線による可飽和吸収実験の様子

    二段集光光学システムにより50nmの集光径までX線を絞り、そのX線を鉄の薄膜(20μm)に照射し、透過光をエネルギー分解ができる分光器で観測した。

    詳しい研究内容について

    X線可飽和吸収を世界で初めて観測 -SACLAの世界最強X線レーザーが切り拓く新たな世界-

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms6080

    Hitoki Yoneda, Yuichi Inubushi, Makina Yabashi, Tetsuo Katayama, Tetsuya Ishikawa, Haruhiko Ohashi, Hirokatsu Yumoto, Kazuto Yamauchi, Hidekazu Mimura & Hikaru Kitamura
    "Saturable absorption of intense hard X-rays in ​iron"
    Nature Communications 5, Article number: 5080. Published 01 October 2014


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