森にタネをまくニホンザルの役割は、年によって変化する

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公開日

辻大和 霊長類研究所助教は、冷温帯に生息する野生ニホンザルの種子散布特性を、果実の生産量が異なる5年間にわたって追跡調査し、ベリー類の種子の散布特性の年次変化を評価しました。その結果、評価した四つの特性のうち、種子の出現率、種子の健全率という二つの特性に年次変化を見出しました。

本研究成果は、2014年10月1日(米国東部時間)に、米国のオンライン総合科学誌「PLoS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

辻助教

本研究により、種子散布特性の一部は食物環境に応じて年次的に変化することがわかりました。果実を提供する樹種と霊長類の結びつきが固定されたものではなく、その年の食物環境に応じて柔軟に変化しているようです。温帯地域の森林は人為的・自然のかく乱に対して速やかに回復しますが、この研究で示されたような、サルと植物のゆるやかな結びつきが、温帯林の長期的な安定性を保つ要因となっている可能性があります。

種子散布に関する研究の多くは、比較的短いスパンで行われているのが現状です。今後、長期的な視点にたった研究が各地で実施されることが望まれます。

概要

果実とともに飲み込まれた種子が母樹から離れた場所でフンとともに排泄される、「飲み込み型」の種子散布は、森林の維持・更新に重要な役割をはたしています。果実食者の採食行動は、果実の利用可能性の時間的変異に影響されます。「時間的変異」というと、多くの人は季節的なものをイメージしますが、果実の生産量は年ごとの変化も大きく、果実の豊凶は、しばしば果実食者の行動に影響を与えます。ゆえに、果実食者による種子散布特性や散布の影響を正しく評価するには、短期的な視点だけではなく、長期的な環境変異の影響を考慮することも必要です。しかし、この点に着目した研究は、これまでほとんどなされてきませんでした。

そこで、辻助教は、冷温帯に生息する野生ニホンザルの種子散布特性を、果実の生産量が異なる5年間にわたって追跡調査し、ベリー類の種子の散布特性の年次変化を評価しました。評価した四つの特性のうち、種子の出現率、種子の健全率という二つの特性に年次変化がみられました。ある植物種にとってサルに自らの果実(と種子)を食べられることは、ある年では有利に、別の年では不利にはたらいている可能性があります。果実を提供する植物と霊長類の結びつきは固定的ではなく、それぞれの年の食物環境に応じて柔軟に変化するようです。温帯地域の森林は、人為的・自然の撹乱に対して速やかに回復しますが、この研究で示されたような、サルと植物のゆるやかな結びつきが、森林の長期的な安定性を保つ要因となっている可能性があります。

ガマズミの果実を採食するニホンザル

詳しい研究内容について

森にタネをまくニホンザルの役割は、年によって変化する

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0108155

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/190414

Yamato Tsuji
"Inter-Annual Variation in Characteristics of Endozoochory by Wild Japanese Macaques"
PLoS ONE Volume 9 Issue 10 e108155 Published: October 01, 2014

掲載情報

  • 中日新聞(10月2日 3面)に掲載されました。