「目に見えない光」でIa型超新星の爆発機構を探る -予想外に早かったガンマ線放出をとらえた-

ターゲット
公開日

2014年8月1日

前田啓一 理学研究科准教授、Roland Diehl マックスプランク研究所教授らの研究チームは、超新星放出物質の表面近くからガンマ線が放出されているという驚くべき観測結果を得ました。この発見は既存のIa型超新星の爆発理論に疑問を投げかけるものです。これまで考えられていたように、星の奥深くのみで核反応が暴走するのではなく、表面付近で先に核反応が開始され、これが星全体の核爆発の引き金になっていることが示唆されました。

本研究成果は、米国科学振興協会 (AAAS) 発行の論文誌「Science」に掲載されました。また、「Science express」(Scienceのホームページ掲載)の2014年7月31日号に掲載されました。

研究者からのコメント

前田准教授

実は今回、二度目の挑戦になります。2011年の夏、超新星からのガンマ線放射の理論計算をまとめてすぐに、比較的近くの銀河M101に超新星が発生しました。しかし研究はなかなかうまくいかないもので、この時は結局ガンマ線は検出できず。捨てる神あれば拾う神あり(?)、今回2014年1月にさらに地球に近い距離にある銀河M82で超新星SN 2014Jが発生。ついに初めてガンマ線で超新星を視ることに成功しました。

実際の観測データは理論予想を覆し、Ia型超新星の爆発機構の理解に大きな謎を投げかけ、新たな理論モデルの提唱につながっています。理論研究から数年で実際に観測する機会に恵まれたことは幸運でした。来年打ち上げ予定のAstro-H宇宙望遠鏡搭載のガンマ線検出器ならもっと遠方、もっとたくさんの超新星をとらえることができます。これにより超新星の理解が大きく進展することを期待しています。

ポイント

  • Ia型超新星爆発の際に大量に生成される不安定原子核56Niの崩壊に伴うガンマ線を検出しました。放射性元素崩壊にともなうガンマ線のシグナルが検出された天体としては、今までで最も遠方の天体です(距離は約1,000万光年)。
  • 爆発後約18日の初期の段階からガンマ線が検出されました。これは既存の理論からすると全く予想外の結果となります。
  • これまで白色矮星の中心近くで核反応が点火されると考えられていましたが、本研究からは白色矮星の表面付近でまず核暴走反応が引き起こされ、これが星全体の爆発の引き金になったという新しい理論が提案されます。

概要

さまざまなタイプの超新星のうち、Ia型とよばれる超新星は、爆発の規模がほぼ同じで、ピーク時の明るさもよく揃っている、「宇宙の標準光源」とも呼ばれる性質を持っています。宇宙のさまざまな場所で発生したIa型超新星を観測し、宇宙の加速膨張を発見した二つの研究グループが2011年のノーベル物理学賞に輝くなど、Ia型超新星は宇宙の歴史と未来を知る上で重要な役割を果たしています。

その重要性にもかかわらず、Ia型超新星に至る進化と爆発過程には多くの謎が残されています。進化過程については、爆発を起こす白色矮星の連星の相手の星(すぐ隣の星)が重要だと考えられています。白色矮星は重力が強いので相手の(通常の)恒星から物質を奪ったり、あるいは相手も白色矮星で衝突合体したりして、白色矮星の質量がある限界値を超えると、白色矮星内部で核反応の暴走が引き起こされると考えられています。爆発過程については、どのように核反応暴走の引き金が引かれるかの詳細がまだ解明されていません。

今回、本研究チームは欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)が開発・運用しているINTEGRAL宇宙望遠鏡を用い、我々の銀河系の外、比較的近傍の銀河M82で発生したIa型超新星SN 2014Jからのガンマ線を検出しました。これは、巨大な核爆発であるIa型超新星爆発の際に大量に生成される不安定原子核56Niが放射性崩壊する際に放出するシグナルであり、爆発的核反応の痕跡を直接探る唯一の観測手段です。銀河系の外で発生した超新星からの核ガンマ線検出は(重い星の爆発である)SN 1987Aについで二番目、Ia型(核暴走型)超新星では初めての例になり、これまでで最も遠い天体からの核ガンマ線の検出になります。

核ガンマ線の観測は超新星の爆発機構に全く新しい知見をもたらすものとして期待されていましたが、実際に本研究で得られた示唆はガンマ線以外での観測では得られなかったものです。本研究により理論研究に新たな課題が突き付けられただけでなく、今後爆発機構をより深く理解することでIa型超新星を用いた宇宙論研究への波及効果なども期待されます。

図:本研究の観測結果をもとに提案されるIa型超新星に至る進化過程。連星相手(左)から白色矮星(右)に急激な物質流入が起こり、この物質は回転しながら落ち込み白色矮星の赤道表面に蓄積される。最終的にこの表面にたまった物質内で核暴走が始まる(ESA and Justyn Maund, QUB)。

詳しい研究内容について

「目に見えない光」でIa型超新星の爆発機構を探る -予想外に早かったガンマ線放出をとらえた-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1254738

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/189405

Roland Diehl, Thomas Siegert, Wolfgang Hillebrandt, Sergei A. Grebenev, Jochen Greiner, Martin Krause, Markus Kromer, Keiichi Maeda, Friedrich Ropke, Stefan Taubenberger
"Early 56Ni decay γ rays from SN2014J suggest an unusual explosion"
Science 1254738 Published online 31 July 2014

掲載情報

  • 京都新聞(8月1日 25面)、日刊工業新聞(8月4日 18面)および日本経済新聞(8月4日夕刊 14面)に掲載されました。